Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
久遠は椅子から立ち上がり、御影の方へ向き直った。
その目には、三年間柚歩の沈黙をそばで見てきた人間だけが持つ深い光が宿り、その光が影を押し返すように静かに広がっていく。

「……御影さん。ひとつ言っておく必要があります。あなたに彼女をお任せするには、彼女の事情を話さなくてはなりません。
 柚歩には子どもがいる。愛生っていう、大事な家族がいる。
 ……愛生の父親は私の兄です」

御影は瞬きもせずに言った。

「知っていますよ。少し調べさせていただきましたから。
 それに、声を聴けばわかります。
 何を抱えて、何を守って、どこへ向かおうとしているのか。
 声は嘘をつけない」

その言葉がスタジオの壁に触れ、天井に触れ、ゆっくりと広がった。
久遠の胸の奥の光と混ざり合い、影と光が同じ方向へ流れ始める。

久遠はその流れの中で静かに言った。

「柚歩の心は私が守る。柚歩の声がどこまで行っても、帰ってくる場所は、私が作ります」

その言葉は強くなくて押しつけでもなく、ただ光が影を照らし返すように静かに広がり、スタジオの空気を押し広げ外の夜気へ滲んでいく。

御影はその光を受け止め、拒むのではなく認めるようにわずかに目を細めた。
影が光に形を与えられるように揺れた。

「だからこそ、あなたと組むべきなんです。
 柚歩さんのデビューはあなたの会社とのコラボレーションとして始めるのが最も自然で最も美しい。
 生活も家族も声も守れる。そしてあなたの会社の理念と柚歩さんの声は驚くほど相性がいい」

久遠の胸の奥の光がふっと揺れ、その揺れが広がり、影と混ざり未来の形を描き始める。

久遠はゆっくり息を吸い、その未来を胸の奥で確かめるように言った。

「……私は協力を惜しみません。
 兄の大切な人なんですから。
私の会社を使えばいい。
 柚歩の未来を守れるなら、彼女の声が進む道を私が作ります」

その瞬間、スタジオの灯りがふわりと滲み、久遠の胸の奥の光と重なりゆっくりと外へ広がっていった。

影だけでは未来は作れず、光だけでも未来は守れない。
二つが並んだとき、初めて柚歩の未来が航路として浮かび上がり、
夜の向こうで、まだ形にならない未来が薄く確かに光を帯び始める。

その光は一点ではなく面として静かに広がり、揺れながら二人の前に伸びていく。
影と光が同じ方向を向いた瞬間、スタジオの空気は閉じずに開き、未来へ向かうための広い道が静かに生まれていた。
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