Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
◆優海
朝の空気は少し冷たくて、胸の奥の揺れを静かに落ち着かせてくれた。

久遠くんの告白が、
夜の間ずっと心のどこかで灯り続けていた。

影の中で生きてきた時間が、
ゆっくり終わりに向かっている気がした。

会社へ向かう道の途中、久遠くんが待っていた。

「……優海、おはよう」

その声は、昨日より少しだけ柔らかかった。

私は立ち止まり、久遠くんの顔を見た。

薄桃色の影は、もう揺れていなかった。

「久遠くん……昨日のこと、ちゃんと話したい」

自分でも驚くほど、
その声はまっすぐだった。

「……琉生君のこと、ずっと好きだった。
 でも、その気持ちを理由に、
 自分の幸せを選ばないのは違うって……昨日、気づいたの」

胸の奥が少しだけ軽くなった。

私はそっと手を伸ばし、
久遠くんの手に触れた。

昨日は久遠くんが触れた。
今日は——
私が触れた。

「……久遠くんと、未来を歩きたい」

その言葉は、影の恋を終わらせるための声だった。

◆久遠
優海が自分から手を伸ばした瞬間、
胸の奥が静かに熱くなった。

昨日の揺れとは違う。
迷いでも、痛みでもない。

優海の心が、自分に向かって開いた証だった。

「……優海」

名前を呼ぶ声が自然と柔らかくなる。

「俺でいいの……?」

優海は小さく笑った。
涙でも痛みでもない、
未来に向かう笑顔だった。

「……久遠くんがいいんだよ」

その声は、咲いた声の続きだった。

久遠は優海の手を、そっと握り返した。

その瞬間、胸の奥に浮かんだ言葉があった。

逃げる必要も、
隠す必要もない言葉。

「……優海。
 俺と、結婚してほしい」

優海の目が揺れた。
驚きでも、戸惑いでもなく——
光に触れた揺れだった。

◆琉生
玄関の方から、
優海の声が聞こえた。

出勤前の準備をしながら、
ふと耳を澄ませた。

優海の声は、
いつもより少しだけ明るかった。

玄関を開けると、
優海と久遠が並んで立っていた。

ふたりの手が、
静かに結ばれていた。

優海は少し照れたように笑った。

「……琉生くん。
 私、久遠くんと未来を歩くね。
 ……結婚する」

その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が静かにほどけた。

もしかしたら、
優海は自分に好意を抱いてくれていたのかもしれない。

でも——
自分はずっと柚歩を忘れられなくて、
探し続けていた。

その痛みを、
優海は代償のように背負ってしまった。

影に立ち続けた優海の時間を、
終わらせてやりたいとずっと思っていた。

だから——
この朝は、
優海の影の時間が終わる日だとわかった。

「……優海。
 お前が幸せになるなら、それでいい」

それだけ言うと、
優海は涙をこらえながら笑った。

ローズクォーツの朝の光が、
ふたりの未来を照らしていた。

影の恋は静かに終わった。
そして——
光の未来が始まった。
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