Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
翌日の昼下がり。会議室の前の廊下は珍しく誰もいなくて、柚歩が資料を抱えて歩いていると、角のところで美桜が立ち止まっていた。

柚歩に気づくと、美桜はびくっと肩を揺らし、慌てて頭を下げた。

「……あ、葉山さん……」

声が震えている。

柚歩は立ち止まった。

「柴咲さん……どうかしました?」

美桜は唇を噛み、胸の前で資料をぎゅっと握りしめた。

そして——深く頭を下げた。

「……あの時のこと……ピアスの件……本当に、ごめんなさい」

柚歩は息を呑んだ。

美桜は続けた。

「私……あの時、自分のことでいっぱいいっぱいで……葉山さんのこと、ちゃんと見てなくて……
 疑うようなこと言って……本当に……ずっと気になってて……」

声が震えていた。

「昨日、葉山さんの歌を聞いて……あんなに綺麗な声で……あんなに真っ直ぐで……なのに私は……」

涙がこぼれそうになって、美桜は慌てて目を伏せた。

柚歩はゆっくりと首を振った。

「……もう、大丈夫です」

美桜は顔を上げる。

「……許して、くれるんですか……?」

柚歩は小さく微笑んだ。

「柴咲さんが、ちゃんと向き合ってくれたから」

美桜は胸の前で手を握りしめた。

「……ありがとうございます……これからは……ちゃんと、葉山さんの力になりたいです」

柚歩は頷いた。

「はい。よろしくお願いします」

美桜は涙を拭い、小さく笑った。その笑顔は、昨日までの距離をそっと埋めるように柔らかかった。

廊下の窓から差し込む光が、二人の間に静かに落ちていた。
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