花売り令嬢の身請け~公爵様は一目惚れに抗えない~
翌朝、エリーゼは窓から見える庭園に惹かれて、外に出た。
広大な庭には様々な花が植えられているが、手入れが行き届いていない。
雑草が伸び、花壇の配置も乱れている。

「もったいない」

エリーゼは母から花の育て方を学んでいた。
フォンテーヌ家の庭園は小さかったが、いつも美しく整えられていた。

「何をしているんだ?」

振り向くと、レオナールが立っていた。

「あの、この庭園、少し荒れていますね」
「母がね。好きだったんだ」
「レオナール様のお母様が……」
「母は花が好きだった。父は母を愛していた」

苦笑しながら話すレオナールの顔が寂しそうに見えてくる。

「それでも母は、何度も父を裏切って出て行った」
「そう、だったんですね」
「だから花も、恋も……信じない」

レオナールにとっては、この庭園を見ると、その母を思い出す忌まわしい場所。
それでも、花に罪はない。決して蔑ろにされてよい存在ではない。
エリーゼの中で、レオナールの傷を癒したい。そんな思いが芽生える。

「レオナール様。お世話になっているお礼に、手入れさせていただけませんか?」
「君、花に詳しいのか?」
「母から教わりました。花を育てるのが、好きなんです」
「花売りだけに?」

レオナールが冗談めかして言うと、エリーゼは思わず笑った。

「そうですね。花売りだけに」

それから、レオナールがいない時間、エリーゼは毎日庭園の手入れをするようになった。

庭園は命を吹き返すように明るい場所へと生まれ変わり始めた。
それはまるで、レオナールとエリーゼのお互いの気持ちが変わるのと同じようだった。
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