エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「私、ずっと滉太郎さんのことが好きでした。結婚されたって聞いた時はすごくショックだったんです。でも実際にお会いした仁奈さんは滉太郎さんとお似合いだで、諦めなきゃいけないって自分に言い聞かせていました」

 さくらさんは私から目を離さない。矢のように射抜く強さを持っているその視線から逃げたくてたまらない。

「でも結婚が偽装だったなら、私に滉太郎さんをください! 本当に憧れだったんです。滉太郎さん以外の人を好きになるなんて考えられないんです!」

 そんなの、私も同じだ。滉太郎さん以上に誰かを好きになる未来は、想像すらできない。

「お願いします!」

 さくらさんが後ろに下がり、畳に手をついて頭を下げた。

「さくらくん、頭を上げなさい」

 そう言いながらも、黒崎さんはうれしそうにしている。

 私が今ここでうなずけば、きっとすべてが丸く収まるんだろう。私が、悪者だ。わかってる。でもうなずけない。私も滉太郎さんが好きだから。滉太郎さんも、私を愛していると言ってくれた。その言葉に縋りたかった。

 針のむしろに座りながら、私は黙り続けた。

 なにも言わない私に呆れたのか、黒崎さんは首を横に振ってから黙って食事を再開した。誰もなにも話さない。お通夜のようだった。

 食事を終えて、ドッと疲れた私は職場に謝罪の電話をし、その後は休暇扱いにしてもらい家に帰った。

 バッグを片付ける余力もなく、ソファに座る。疲れすぎて、顔の筋肉まで脱力している気がした。
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