エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 どうして滉太郎さんは私にイギリス駐在のことを話してくれなかったんだろう。やっぱり黒崎さんが言う通り、私と一緒に行くつもりはなかったから? 滉太郎さんは否定していたけれど、やっぱり黒崎さんに偽装結婚を話したのは滉太郎さんなんじゃ。だってほかに、伝えられる人なんていない。

 優しいキスも、包み込むようなハグも、全部演技だったんだろうか。そうは思えない……いや、私が思いたくないだけなのかもしれない。

 なにが真実で、なにが嘘なのかわからなくなってきた。誰が嘘をついていて、誰が本当のことを言っているのか。滉太郎さんを信じたいのに、信じるのが怖い。信じるってとても強いことだ。海風や嵐にさらされても倒れない松の木のようにどっしり構えなきゃいけない。私には、できそうにない。

 今も、黒崎さんから投げつけられた言葉が頭の中で繰り返し再生されている。私は、滉太郎さんにふさわしくない。何度も言われると、そうなんだろうと納得してしまう。元から、釣り合っているとは思っていなかったけれど。

 ひとつだけ、確かなことがある。

 黒崎さんは私と滉太郎さんが結婚するのを絶対に認めないということ。

 きっと滉太郎さんが説得しても黒崎さんは頷かない。黒崎さんは松だ。私の前でどっしりと座る姿を見て、そう感じた。心を込めて滉太郎さんへの想いを伝えれば結婚を認めてもらえると思っていた私は甘かったのだ。

 そう自覚すると心がぽっきり折れた。足を踏ん張って荒波に立ち向かうより、流されてしまう方がずっと楽だと気づいてしまった。
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