エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 リビングの隅でロボット掃除機が起動する音がした。窓から差す西日が白いラグをオレンジ色に染めている。もう夕方だ。でも今日は帰りが遅いと滉太郎さんが言っていたから焦らなくていい。

 疲れて指一本も動かす気力がないと思っていたのに、意外とすんなり立ち上がれた。諦めたら肩の荷も下りたからかもしれない。

 ロボット掃除機が私の足もとに来てゴツンとぶつかる。早く出て行けと言われているようだった。

 でもその前に夜ご飯は作らないと。掃除もちゃんとやろう。立つ鳥跡を濁さずだ。

 考えるのに疲れて献立が思い浮かばず、作った夕食は味噌汁と焼き鮭とほうれん草のお浸しという朝食みたいなメニューになってしまった。ひとつひとつラップをして、冷蔵庫にしまう。

 洗濯物も片付けて、自分の部屋以外にお風呂もトイレも掃除した。

 この間も出て行こうとしたから、荷造りもスムーズに終わった。あとは出て行くだけ。そう思っているとスーツケースの上に乗せたバッグからスマホのバイブレーションが聞こえた。千穂から電話だ。

「もしもし、千穂?」

『この前はごめん、仁奈。私、言い過ぎた』

「いいよ、もう」

『でも私、どうしても仁奈に直接謝りたくて。今から会えないかな?』

「千穂……」

 あの日口論になって、千穂との縁は繊維が何本がちぎれてしまった。このまま引きちぎれて、会わなくなってしまうんじゃ、とも思っていた。

 でも千穂がまた会いたいと思ってくれているなら、会いたい。楽しい時もつらい時もいつも一緒にいた友人とあんな形で仲違いしたくないのが本音だった。

「うん、私も千穂と会って話したい」

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