エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 出入り口のドアノブに掛けた手が止まる。

 ホストクラブのツケを回収する、怖い人たち。ドラマで見たような、全身に入れ墨がある強面の男性が実家に乗り込むところを想像して、顔から血の気が引いた。

 掴んだままだったドアノブのハンドルが不意に下がった。私は力を入れていない。誰かが外からこのドアを開けようとしている。

「あ、来たみたい」

 肺が痙攣したように呼吸がうまく吸えない。

 どうしよう、逃げなきゃ。

 誰か、と助けを求めて縋るように振り返るも、カウンターの中にいたバーテンダーはどこかへ行ってしまったようだった。

 ギィッと音を立ててドアが開く。私は恐怖で固まって動けなかった。

「仁奈」

 でも私の名前を呼んだのは、滉太郎さんの声のようだった。

 ひょっとして恐怖のあまり幻聴が聞こえたんだろうか。おそるおそるドアの方を振り向く。そこには私の幻覚ではなく、滉太郎さんが間違いなくいた。

 彼の姿を認めると途端に体の力が抜けて、立っていられなくなった。ストンとお尻から落ちそうになったが、滉太郎さんが私の腰に腕を回して体を支えてくれた。

「仁奈、ここにいたんだな」

 私を呼ぶ、いつもの優しい声。安心して、涙腺からじんわりと涙が沁みだしてくる。

 滉太郎さんの腕の中にいると、ここが私の居場所だと思い知らされる。私、どうして離れられると思ったんだろう。

「滉太郎さん……」

「どうしてあなたがここにいるの?」

 私の声と千穂の声が重なった。滉太郎さんは私をジッとみて眉をひそめる。

「顔色が悪いけど、もしかして俺が原因?」

「へ?」
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