エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「申し訳ないですが、予定があるならキャンセルしていただきたい。先ほどの男性は、次期ペンブリッジ子爵。イギリスの貴族院議員のご子息なのでね。彼の誘いを断る真似をしたら、下手をすれば外交問題になりかねない」

 由緒正しいイギリス貴族。想像以上のお偉いさんだった。とんでもない人たちと関わってしまって、背中に冷や汗が滲む。

「貴族の方って、プライベートジェットで移動するんじゃないんですか?」

「イギリス貴族は質実剛健。地に足をつけた方が多いですから、必要以上の贅沢をする方はそれほどいません。それより名前を教えていただけますか?」

野々村(ののむら)仁奈です」

「私は黒崎(くろさき)滉太郎。外務省の者です」

 差し出された名刺には確かに外務省と書かれている。エリートだ。

 話している間に私のスーツケースが流れてきて取ろうとしたら、滉太郎--いや、黒崎さんが無言で先に取ってくれた。

「すみません、重いのに」

「いえ。また転んで落とし物をされたら面倒ですから」

「また?」

「羽田でもスマホを落としていたでしょう?」

「み、見ていらっしゃったんですか?」

「というより、私が拾いましたから」

 もしかして、あの眼鏡とマスクの彼が黒崎さん? たしかに言われてみれば、目が同じだ。まさかあの完全防備の下にこんな美貌が隠されていたとは。

 私が呆気に取られていると、黒崎さんは「行きましょう」と短く言って歩き出した。行くってどこに? 戸惑いつつ、私は黒崎さんの後を追った。
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