エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「そうですか。娘から恋人を紹介してもらうことが初めてで驚きましたが、あなたのようなしっかりした男性が仁奈のそばにいてくださるなら、私も安心です」

 穏やかな表情でゆっくり言葉を紡ぐお父さんの瞳が潤んでいることに気がついた。見守っていると、お父さんは唇を震わせて涙をこぼした。

「お父さん?」

「ああ、ごめん。嬉しくてね……仁奈には本当に苦労をかけたから。黒崎さんとお幸せに」

 指先で涙を拭うお父さんを見ていると、私も胸がいっぱいになった。涙があふれそうになって誤魔化すように息を吐いて笑った。

「お父さん、私たちまだ結婚するわけじゃ」

「私が責任をもって、仁奈さんを幸せにします」

 黒崎さんはソファに歩み寄ると、膝を折ってお父さんの手を握った。

 まるで結婚の許しを乞うような言葉に、私は目を見開いた。黒崎さんがそんな私を見上げてふっと微笑む。

「仁奈にははっきり言っていなかったけど、俺はずっとそう思っていたよ」

 あまりにも自然な口調で、本当に黒崎さんと結婚するんじゃないかと錯覚しそうになる。

「お父さん、仁奈さんとの結婚を許していただけますか?」

 黒崎さんが優しく問いかけると、お父さんは皺が深くなった顔を歪めて、小さく何度も頷いた。

「もちろんです。ありがとう、黒崎さん。どうか娘を幸せにしてあげてください。どうか、どうかよろしくお願いします」

「はい。任せてください。結婚式にはお父さんもぜひ出席してくださいね。お父さんの体調が回復するまで、待っていますから」

「ありがとう、ありがとう……仁奈の花嫁姿を見るのが夢だったんです」

 感極まったお父さんの言葉を聞いたらもう、涙をこらえるなんてできなかった。
< 33 / 123 >

この作品をシェア

pagetop