エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 タクシーを降りた後、詳しい話を聞くために黒崎さんを駅前のカフェに誘った。

 黒崎さんは混み合う店内で素早く空いている席を見つけると、綺麗に折り畳まれたハンカチをテーブルに置いてレジへ向かった。

「メニューは決まった?」

「アイスティーにしようかと」

「わかった」

 短く返事をして、黒崎さんは私の分までドリンクを注文してくれた。

 レジの女の子がポーッとしながら黒崎さんを見ている。今日は伊達メガネもマスクもしていないから、イケメンすぎる素顔のままだった。

「あの、すごくかっこいいですね」

 女の子は勇気を出したようにそう告げていたが、黒崎さんは顔色ひとつ変えずに会釈だけしていた。声をかけられて煩わしいと言っていたのはこれか……と納得。たしかにこんな風に毎回話しかけられては疲れてしまうかもしれない。

 席に戻る途中、自分の飲み物の代金を支払おうとしたが「こんな少額をやり取りする時間がもったいない」と言って受け取ってもらえなかった。

「あ、ありがとうございます」

「別に気にしなくていい」

 本当に気にしていなさそうな淡々とした口調だった。

 席についてアイスコーヒーをひと口飲んでから、黒崎さんは私にビシッと人差し指を突きつけた。

「いいか? この結婚は俺たちどちらにもメリットがある」

 なんだか警察の事情聴取みたいで、私は反射的に背筋を伸ばした。実際に受けたことはないけど、そのくらい黒崎さんが纏う空気は厳格だった。

「君は病床のお父さんを安心させることができる。ただの恋人より結婚したことにする方がより効果的だ。君のお父さんも、君が結婚することを望んでいただろう?」

「それは、そうかもしれないですけど」

「俺も出世に響くからそろそろ結婚する必要があったんだ。外務省はまだまだ古い組織で、結婚して初めて一人前って風潮があるからな。親からも結婚をせっつかれてうんざりしていたから、君が結婚してくれると助かる」

「黒崎さんのお相手が私なんかで務まるとは思えないんですが」

 黒崎さんの義理の父親は国会議員。私みたいな地味な一般庶民が黒崎さんの結婚相手で納得するとは思えない。
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