エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 滉太郎さんの家に引っ越してから翌日、久しぶりに千穂からメッセージが届いた。千穂から連絡がくるのは、イギリス旅行の当日以来だ。

 会って話がしたいと書いてあって、私は大急ぎでOKの返事をした。

 一応同居しているし、滉太郎さんにも夜に出かけることを伝えると、「好きにしていい」と言われた。

「偽装結婚だし、仁奈の行動を制限するつもりはない。お互い好きに過ごそう」

 家事も各自で行い、互いの生活に干渉しない。

 提示されたルールは、これまで家族と暮らしていた私には少し寂しく感じたけれど、ひとり暮らしをするのと同じだと思って納得した。

 それから三日後、仕事終わりに行きつけのスペインバルで待ち合わせたのだが、千穂は席につくなり険しい顔をした。

「仁奈、結婚したの?」

 ざわつく店内でもよく聞こえるくらい力強い声だった。ジッと、穴が開きそうなほど見つめられて、すぐに返事ができなかった。

「亮介くんから、仁奈が結婚したって聞いた。三歳年上の外交官と。付き合ってたの知ってたかって聞かれたんだけど、いつの間に彼氏できたの?」

 千穂は中学生の頃からうちによく遊びにきてくれていたから、当然亮介も知っている。突然私が結婚すると聞かされて、驚いた亮介は千穂に確認したんだろう。千穂に聞かなくても、私に直接聞いてくれたらよかったのに。

「結婚は……したにはしたんだけど……」

「聞いてないんだけど。いつ、どこで知り合ったの? いつから付き合ってたの?」

 千穂の背後から怒りのオーラが見える。

 いつも千穂から恋愛話を聞かせてもらっていたのに、私がなにも言わずに結婚していたら怒るのも当然だと思う。私が千穂の立場だったら、どうして話してくれなかったんだろうってショックを受ける。

「いや、えぇっと、これには事情があって……」

 偽装結婚の真相は、本当なら秘密にしておくべきだ。でも十年来の親友に嘘をついたままでいるのは心苦しい。それに亮介が私たちの結婚を不審がっているなら、千穂に口裏を合わせてもらった方がいいかもしれない。

 そう考えて私は千穂に経緯を話した。
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