エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 大切な友人すらろくに慰められないふがいない自分に落ち込み、その夜はなかなか寝付けなかった。

 水でも飲もうと思ってリビングへ行くと、キッチンに滉太郎さんがいた。立ちながら、夜食の納豆ご飯を食べている。

「おかえりなさい。今日もこんな時間まで働いてらっしゃったんですね」

「今日は急な会議が入ってね。本当はもう少し早く帰るつもりだったんだが」

 イギリスの日本大使館との会議が多いから、時差の関係で帰りが遅くなることが多いらしい。おかげで夕飯がこんなに遅くなった、と肩をすくめている。

「えっ、それ、夜ご飯なんですか?」

「そうだけど」

 それだけ? 一日働いてそれだけなんて体を壊してしまう。私も節約のために夕飯を抜いていた時があったけれど、エネルギー不足でしょっちゅう風邪を引いていた。

 私は冷蔵庫からタッパーをふたつ取り出した。今日作った小松菜の煮びたしと、ブロッコリーのサラダの作り置き。蓋を開けて滉太郎さんに中身を見せる。

「あの、もしよかったら召し上がりませんか? 私が作ったものなんですけど」

「でもそれは仁奈が自分のために作ったものだろ?」

「自分だけで食べるより、他の人も食べてくれた方がうれしいです。私も今日お弁当で食べたんで、味は大丈夫だと思います」

 そう言うと、滉太郎さんは遠慮がちな顔をしながら小皿に持った小松菜の煮びたしをひと口食べた。

「うまい」

 そのひと言に心がふわりと舞い上がった。やっぱり自分ひとりで食べるより、誰かに食べておいしいと言ってもらえる方が断然うれしい。ブロッコリーのサラダも小皿に盛り、それもあっという間に食べてくれた。それでもまだまだ食べられそうで、結局作り置きを全部食べてもらった。

「ごめん。俺が食い尽くしちゃって」

「いえ、むしろいっぱい食べていただいて嬉しいです! あの、よかったらこれからも多めに作っておくので、食べてくださいね」

「そんなの君に悪いだろ。俺に気をつかわなくていい」

「気をつかってるわけじゃなくて。自分で作ったご飯を自分だけで食べるのってちょっと寂しいんです。だから滉太郎さんが食べてくれた方がうれしいです」

 言い終えてから、ちょっと出しゃばりすぎたかなと反省したけれど、滉太郎さんは柔らかく目を細めた。

「ありがとう、すごく助かる」

 その言葉は自信を失っていた私の心を起き上がらせてくれた。
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