エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 義父は良い人だ。だが、面倒な後継問題に巻き込まれないために、距離を取っているからそれほど親しくはない。

 だから俺はまともな父親というものを知らない。

 仁奈の父と対面した時、これがまともな父親なのかと柄にもなく感慨深く思った。

 娘の幸せのために、仁奈の父は涙を流していた。

 その姿を見ながら、俺はふつふつ込み上げる怒りを抑えるのに必死だった。

 一度、興味本位で興信所に実父の行方を調べてもらったことがある。奴は再婚して、家庭を築いていた。俺と母さんの人生をめちゃくちゃにしたくせに。

 クズの極みのような実父がのうのうと生きているのにも関わらず、善良な仁奈の父は重い病に侵されている。不条理だ。神なんていないと改めて悟った。

 神が不条理を放置するなら、俺が正してやる。

 病を治すことはできないが、仁奈の父の望みを叶えることはできる。
 
 そんな打算から始まった仁奈との結婚生活は、予想以上に快適だった。

 一緒に住んですぐ、家に帰って仁奈とたわいのない話をするのが楽しみになった。仁奈がいつも朗らかでいてくれるのも大きい。笑顔には人を癒す効果がある。

 あと、飯もうまい。他人が作る食事を食べるのは随分久しぶりで、毎日楽しみにしている。

 偽装結婚なのに食事の用意を頼っているのが忍びなく、一昨日は早く帰って俺が夕食を作った。

 料理はただ栄養を摂取する食事を作るためだけの作業で得意ではなかったが、おいしそうに食べてくれる仁奈を見るのは満更でもなかった。今まではうまい飯を作る仁奈に甘えていたが、休日は自分で作ってもいいかもしれない。
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