エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 本当は平日も含めて交互に料理を作る方が仁奈の負担が減るんだろうが、なかなか難しい。イギリスの在外公館との会議が多く、時差があるから夜に会議が集中してしまう。

 一昨日定時に帰ったこともあり、昨日と今日はその皺寄せが来て、帰るのが遅くなった。終電に間に合っただけよかったと思うべきか。

 寝ているであろう仁奈を起こさないように、そっと玄関ドアを開ける。

 その時、コーヒーの香りが鼻をかすめて首を傾げた。まだ起きてるのか?

 無造作に靴を脱いで、足早にキッチンへ向かった。仁奈が寝る前に少し話せるだろうか。そう思っていたが、キッチンで立ちながらコーヒーを飲む仁奈の姿を見て、俺は一瞬言葉を失った。

「……あっ、滉太郎さん、おかえりなさい」

 仁奈がいつもの朗らかな調子でそう言った。

 だが、顔に張り付いているのは作り笑いだとすぐわかった。視線も俺から逃げるように下に逸らしている。

 目元が赤い。一昨日もそうだった。目にゴミが入ったわけじゃないはずだ。

「ご飯、食べられますか? こんな時間だからお茶漬けとか食べやすいものが……」

「仁奈」

 不自然なほど明るい口調の言葉を遮って、俺は彼女の手首を掴んだ。そうしないと消えてしまいそうなくらい、彼女は悄然としていた。放っておけなかった。

「どうした? なにがあった?」

「いいえ、なにも」

「だったら、こんな顔しないだろ」

 手首を掴んでいる手とは反対の手で彼女の頬に触れた。

「本当になにもないですよ」

「仁奈は嘘が下手だな」

 こんなに青ざめて、声まで震えているのになにもないわけない。

 強がる仁奈に少し呆れて、彼女の丸い後頭部を撫でた。
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