エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「今日はさくらさんがご一緒なんですね」

「ああ。娘の社会勉強も兼ねてね」

「お久しぶりです、さくらさん。お父様から大学をご卒業されたと伺いました。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます……」

 さくらさんと呼ばれた女性は、顔全体を真っ赤にして俯いた。

「仁奈。こちらが東條さん。前にも話したけど、元駐英大使で、俺が在外研修でイギリスにいる間とてもお世話になった方だ」

 東條さんの話は聞いたことがない。でもそういう設定みたい。

「初めまして。妻の仁奈と申します。主人がいつも大変お世話になっております」

 この短時間で何度も妻と紹介を受けたので、なんとか噛まずに言えてほっと胸を撫で下ろす。

「初めまして、東條です。こちらこそ、滉太郎には世話になってるよ。彼はよく働いてくれるからね。いやしかし、滉太郎が結婚したと聞いた時は驚いたよ。うちの娘と結婚してもらおうと思っていたんだがなぁ」

 さくらさんを見やると、彼女は唇を引き結びながら口角を上げようとしていた。笑いたくてもうまく笑えない、そんな表情。

「ご冗談を。うちの娘はどこにもやらんっていつも息巻いたじゃないですか」

「あれは言葉の綾だよ。いや、娘を嫁にやりたくないのは本音なんだが、どうしても結婚させなきゃいけないなら、婿は滉太郎だと決めていた」

「勝手に決めないでください。それにさくらさんにはもっといい方がいらっしゃいますよ。私なんてさくらさんにとってはおじさんでしょう」

「そんなことありません! 滉太郎さんはとっても素敵な方です!」

 滉太郎さんの言葉をさくらさんが力いっぱい遮った。大広間にさくらさんの声が響いて、何人かがこちらを振り返る。さくらさんはハッとした顔をして、また俯いてしまった。
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