エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「あの、どうして……?」

 握られた手に視線を落とすと、滉太郎さんがニッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「夫婦になるならこれくらいの接触は慣れてもらわないと困る。前にも言っただろ」

 確かに言っていたけれども、今の私には難易度が高い。体温が急上昇して、ちょっとクラクラしてきた。

 マンションのエントランスにはタクシーが止まっていた。滉太郎さんが呼んでくれていたようで、恐縮しつつ乗り込む。

「今までは必要性を感じなかったけど、車を買った方が便利かもな。仁奈はどんな車がいいとかある?」

「そんな……滉太郎さんが買うものですし、私のことは気にしないでください」

「なんで? 仁奈も乗るだろ?」

 当然のように言う滉太郎さん。でも私が乗るのは結婚を偽装する一年半だけだ。

「今度の休みにディーラーでも行くか。ついてきてくれる?」

「は、はい」

 なるべく顔を合わせないように。そう思っていたのに滉太郎さんの、好きな人からの誘いは断れなかった。

 でも一緒に車を選ぶとして、偽装結婚が終わった後、滉太郎さんは私の好みが反映された車に他の女性を乗せるんだろうか。

 胸が締め付けられるように痛む。嫌だと思った。
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