エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
「俺のことを買ってもらっているみたいでありがたいけど、仁奈こそ俺にはもったいない相手だと思っているよ。優しくて気立が良くて、思いやりがある。当たり前のようだけど、そういう人間はなかなかいないからね。それに笑顔もかわいい」

 椅子の背もたれに腕を乗せて振り返った滉太郎さんが、私を見て微笑む。ドクンと心臓が跳ねて、顔全体が熱くなる。クラクラするのは、風邪のせいだけじゃない気がする。

 でもこれはポーズ。滉太郎さんはただいい夫を演じているだけ。

 痛む頭で必死にそう言い聞かせる。なのに滉太郎さんの演技が完璧すぎて、彼から愛されていると錯覚しそうになる。

「君もそう思うだろ?」

 滉太郎さんが微笑んだまま亮介に目を向ける。亮介はムッとしていた。

「姉ちゃんが優しくてかわいいのは俺が一番よく知ってます」

「な、なに言ってるのよ」

「身内に見せる顔と夫に見せる顔は違うだろうから、君が一番仁奈のことをよく知っているっていうのは同意しかねるけど」

「もう、滉太郎さんまで……」

 恥ずかしいから演技はもうやめてほしい。

 さらに頬に熱がこもるのを感じていると、クラリとめまいがした。咄嗟にキッチンに手をつく。

「仁奈!」

 滉太郎さんの焦ったような声が聞こえる。ガタンと大きな音がした。

 視界が白く明滅する中、ふらつく体が支えられた。

 強くて頼もしい力。

 ひと息ついてから見上げると、私は滉太郎さんの腕の中にいた。

「体が熱いな。すまない、熱があるって気づけなかった」

 滉太郎さんが苦虫を噛み潰したような表情をしている。どうしてだろう。体調不良は私の問題で、滉太郎さんのせいじゃないのに。
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