エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 今日初めて会ったというのに、私の印象は随分悪いらしい。

 目を細める金子さんの笑顔が蛇のように見えてくる。

「単刀直入に申し上げます。黒崎滉太郎さんと別れていただけませんか? おふたりの結婚が偽装にすぎないことはわかっております。これ以上ご子息につきまとわないでいただきたい」

 思わず息を呑んだ。どうして偽装だって知っているの?

 頭が真っ白になって反論が思いつかない。黙っていると、金子さんは愉快そうな顔をした。

「どうして知っているのかという顔をされていますね。そうお話をいただいたからですよ」

「話って、滉太郎さんがですか……?」

 金子さんがニンマリと笑みを深める。言うまでもないということだろうか。

「あなたが滉太郎さんに偽装結婚をもちかけて、父親の治療費を支払わせていると伺いました」

 私は押し黙るしかなかった。

 滉太郎さんはお互いに利がある関係と言っていた。形だけのパートナーがほしい滉太郎さんと、父を安心させたい私。

 でも実際は、私の方が滉太郎さんに多くの負担をかけてしまっている。今朝も家事代行の件をお願いしてしまったし、やっぱり心の中では迷惑に思っていたんだろうか。

「あなたの存在は滉太郎さんに負担でしかないのです。彼にはもっとふさわしいお方がいる。本来なら、その方とご結婚される予定でした」

 グサリと胸を切り裂かれた。

 滉太郎さんにふさわしい女性。

「それって、外務省の東條さんのご息女でしょうか?」

「おや、ご存知でしたか。東條家は代々官僚を輩出していて、霞ヶ関に強いパイプをお持ちなんです。生まれからして、滉太郎さんの奥方にふさわしい」

 私の出自が滉太郎さんとは釣り合わないと言われたも同然だった。

「おわかりいただけたのなら、滉太郎さんからは手を引いていただきたい。金が必要なら用意すると、黒崎は言っております」

 滉太郎さんと一緒にいるのは、お金目当てなんかじゃない。でも実際に金銭的な負担をかけてしまっているのは事実で、なにも言えない。

 悔しくて、私は唇を引き結んだ。
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