エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 電話を切って、おもむろに上を見上げた。真っ白な天井にひとつだけ薄い茶色のシミを見つけて、それを眺めながら考える。

 亮介の奨学金を全額お父さんの医療費に使うつもりはない。でも私が医療ローンを借りて、まかないきれない分だけ亮介の奨学金を使わせてもらったら、滉太郎さんの手を借りなくても今後は治療費を払っていける。

 滉太郎さんを、解放してあげられる。

 喜ばしいはずなのに、心にぽっかり穴が開いた気分だった。

 呆然としていると、玄関から錠が回る音が聞こえた。滉太郎さんが帰ってきた。「ただいま」という声に、「おかえりなさい」と玄関に聞こえるくらい大きな声で返す。

 急いで冷凍していたご飯を温めて、サラダと一緒に並べる。焦げた煮込みハンバーグも出すしかない。今から代わりのものを作ろうと思っても、滉太郎さんを待たせてしまう。

 ため息をついていると、 仕事用のスーツから部屋着のTシャツとチノパンに着替えた滉太郎さんがリビングにやってきた。

「ごめんなさい。今日のハンバーグ、あんまり美味しくないと思います」

 テーブルの上の失敗作に視線を落としながら正直に白状する。言ってしまった後で、これってただ気をつかわせるだけなのかもと後悔した。

 椅子を引きながら滉太郎さんがふっと笑う息遣いが聞こえる。

「仁奈の料理はいつもうまいよ」

「……でも、焦げちゃって。まずかったら残してくださいね。本当にごめんなさい」

「仁奈が作ってくれたものなら黒焦げでもうまいから大丈夫」

 やっぱり、気をつかわせちゃった。
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