エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!

偽装結婚の終わり

 ソワソワしたまま迎えた土曜日。今日はお父さんの様子を見に行くのはやめて、朝から部屋の片づけをしていた。

 この部屋へ引っ越す際に使ったスーツケースに自分の服を詰めていく。

 今日まで、滉太郎さんが私をデートに誘ってくれた理由をずっと考えていた。

 最後の思い出作り、というのが一番納得できる理由だった。滉太郎さんは優しいから、どうでもいい存在に成り下がったはずの私にも気をつかってくれているんだろう。

 ロンドンの時、パーティーの前に買い物に行った後にアフタヌーンティーに連れて行ってくれたことを思い出す。

 滉太郎さんなら効率を重視して休憩時間をカットしてもおかしくないのに、アフタヌーンティー、しかも予約必須の人気店に案内してくれたのは、旅行の予定が変更になって観光できなかった私に配慮してくれたんだと思う。あの時は楽しかった。思い出して、憂鬱になる。

 きっと今夜、偽装結婚の解消を告げられるんだろう。

 だから、滉太郎さんから言われる前に私からこの関係を終わりにすると決めた。

 最後の一着をしまい終え、ガランとした部屋を眺める。シーツをピンと張ったベッド、なにも置いていないテーブル。この部屋も今日が最後だから、なるべく自分の痕跡を残さないようにした。最初から住んでいなかったみたいに。

 眺めていると虚しさがこみ上げて、私は堪らず天井を見上げた。視界に壁掛け時計が目に入る。いつの間にか四時を過ぎていた。五時には出かける予定と滉太郎さんが言っていたから、そろそろ準備をしないと。

 慌てて着替えてメイクも直して、姿見の前で自分の姿を眺めた。ロンドンで滉太郎さんに買ってもらった二着のうち、比較的カジュアルなワンピースを着ることにした。よそ行きの服はこの一着しか持っていない。上からジャケットを羽織れば、少し肌寒くなった夜でも問題ない。

「仁奈、準備はどうだ?」

 ドアの外から滉太郎さんの声が聞こえた。

「は、はい。今行きます」

 部屋を出る前に緊張を吐き出そうと深呼吸をしたけれど、気持ちはまったく落ち着かなかった。
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