エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 滉太郎さんらしい発想だ。

 でもそっか、滉太郎さんは泊まるのか。

 私はきっと食事が終わったら帰されるから、滉太郎さんの家に荷物だけ取りに行こう。借りていた鍵は、どうしよう。マンションのコンシェルジュで預かってもらえるだろうか。

 悶々と考えていると、部屋のチャイムが鳴った。ホテルのスタッフが食事がのった大きな二段ワゴンを押してきて、私たちを見ると恭しく礼をした。

 テーブルの上に料理が並べられる中、私は腰に手を添えられ、丁重に案内されて食事の席についた。

 ルームサービスだから、レストランのコース料理とは違ってある程度まとめて運ばれるらしい。

 目の前には野菜とキャビアがオブジェみたいに盛り付けられている前菜と透き通ったコンソメスープ、オレンジ色と緑色のソースでお皿も彩られた魚のソテーが並んでいる。見ているだけでおいしそう。でも私はそれどころじゃなかった。

 グラスにシャンパンが注がれ、形式的に乾杯する。流麗な手つきでナイフとフォークを操る滉太郎さんを、私は心ここに在らずで見つめていた。

「仁奈? どこか具合でも悪いのか?」

 食事にまったく手をつけない私を不審に思ったのかも、滉太郎さんが首を傾げる。

 今が打ち明けるタイミングだと思った。ゴクリと生唾を飲み込む。背筋をピンと伸ばして、滉太郎さんの目をしっかりと見据えて、私はとうとう口を開いた。

「最後にこんなに素敵なディナーに連れて来てくださってありがとうございます」

「……最後?」

 滉太郎さんが眉をひそめる。まだなにも言っていないのに、私がこれが最後の機会だと知っていることに驚いているのかもしれない。
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