エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 私は無理やり口角を上げた。そうでないと声が震えてうまく話せない気がした。

「それに父の治療費も今まで援助してくださって、本当にありがとうございました。まだ治療中ですけど、父のために家事代行も手配してくださっていますし、滉太郎さんには感謝してもしきれません」

「……大したことはしてないよ」

「そんなことありません! 本当に感謝しています。でも私、滉太郎さんの親切に甘えすぎていました。申し訳ございませんでした」

 滉太郎さんの目を見て言わなきゃと思っているのに、後ろめたくて視線がどんどん下がっていく。

「けどもう大丈夫です」

「どういう意味だ?」

「亮介が追加で奨学金を借りてくれたんです。私も医療ローンを借りる予定で、やっと自分たちだけで医療費を払えそうです」

「……だから?」

 滉太郎の声は冷たくて、言葉が詰まりそうになった。膝の上に置いた拳を強く握った。爪が食い込むくらい強く。そうしないと打ち明ける勇気が振り絞れない。

「だから、その、偽装結婚はもう、解消していただいて構わないです」

 言った。言ってしまった。これでもう終わりだ。

 ギュッと目をつぶる。そうでないと泣いちゃいけないのに泣いてしまいそうだった。

 滉太郎さんから返事はない。部屋の中はシンと静まり返っている。

 私はおそるおそる目を開けて、顔を上げた。滉太郎さんは感情が抜け落ちた表情で私を見つめている。

「それは、俺が用済みってこと?」

 ゾッとするほどの低い声。私は思わず息を詰めた。

「そういうわけじゃ……でも滉太郎さんにはもっとふさわしい方がいるでしょうし」

「それって誰」

「さ、さくらさんとか」
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