エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 怒ってないと言いながらも、イラついた様子でシワのないジャケットを無造作に床に脱ぎ捨てた後、滉太郎さんはスラックスのポケットから、真っ赤な小箱を取り出した。

 親指で弾くようにして開けた小箱の中には、大粒のダイヤがきらめく指輪が収まっていた。

 私は目を見開いた。私の感覚がおかしくなければ、これは婚約指輪に見える。

 呆然としているうちに、滉太郎さんは恭しく私の左手を取って、婚約指輪らしきものを私の薬指にゆっくりと嵌めた。サイズはぴったり。他の誰かのために用意したものとは思えない。

「こ、これ……」

「婚約指輪だよ。結婚指輪も同じサイズで作ってある。サイズが合っててよかった」

 偽装結婚するなら結婚指輪を作らないと。そう話したのは記憶にある。

「どうして、婚約指輪なんて」

「俺は、この結婚を本当にしたかったから」

「えっ……」

 どういう意味?

 頭の中で疑問符が量産されて、思考を働かせる隙間もないくらい埋め尽くされる。

 滉太郎さんはこの偽装結婚をやめたいと思っていたはずで。さくらさんと結婚する方がメリットがあるはずで。でも今、すごく苦しそうな表情をしている。

 私の顔の横に滉太郎さんが手をついた。眉間に皺が寄っていても美しいとしか言いようがない顔が近づいて、コツンと額が合わさる。

「俺は仁奈が好きだよ。仁奈の一番近くで、仁奈を守ってあげたいって思ってる。俺は勝手に、仁奈も同じ気持ちでいてくれてると思ってたけど、違ったみたいだな」

 ハッと笑って、滉太郎さんはベッドに肘をついて私の前髪を掻き上げる。
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