エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 滉太郎さんの顔を見るとホッとして、やっとまともに呼吸ができるようになった。

「なにかあったのか? すごい顔が青いぞ」

「い、いえ。なんにも」

 うまくごまかせたと思っていたけれど、滉太郎さんは訝しげな顔で腕を組んでいる。

「そんな顔してなんにもないわけないだろ」

「いや、その、本当に……なんでもなくて」

「本当に? 俺に迷惑をかけないようにごまかしてるんじゃなくて?」

 鋭いひと言に心臓が跳ねた。心を読まれているんだろうか。

 滉太郎さんがため息を吐く。呆れられたと思っていると、ふわりと包み込むように抱きしめられた。

「仁奈は俺に心配をかけたくないって思ってるのかもしれないけど、なにも言ってくれない方が心配する。なにもないならいいよ。でもなにか困ったことがあったなら、話してほしい。俺が解決できることだったら解決してあげたいし、泣いてる時は涙を拭いてあげたい。俺は仁奈の力になりたい」

 滉太郎さんの声が羽のように私の体を優しく撫でて、力が抜けた。力が入っていたことにも今さら気がついた。

 誰に言われたわけでもないけど心配はかけちゃいけないものだとずっと思っていた。

 母が亡くなって、大事な支柱が一本失われて、私も父も家が崩れ落ちないよう必死で支えた。あと一ミリグラムでも父の肩に重りがのったら、崩壊してしまっていたと思う。それくらいいっぱいいっぱいだった。

 父の負担にならないよう、困りごとは全部のみこんだ。のみこんで、お腹の形が変わりそうなくらい苦しくても、吐き出さないことが正解だと思っていた。
< 96 / 123 >

この作品をシェア

pagetop