エリート外交官の完璧なる偽装結婚 ……のはずが旦那様は私を溺愛しているみたいです?!
 でも滉太郎さんは、全部受け止めてくれるという。いいのかな、とためらう気持ちもある。でも寄りかかって体を預けてしまいたい。受け止めてくれると確信があるからそう思える。私、滉太郎さんに甘えてる。

「帰り道、誰かにつけられているような気がしたんです。それで振り返ったら、黒い帽子を被った男の人が後ろに立っていて」

「その男になにかされなかったか?」

「いえ。私と目が合ったら立ち去ったので、危害を加えられたわけじゃないんです。でも……」

「怖かったな。仁奈が無事で良かった」

 滉太郎さんが私の背中を撫でる。優しい手つきに涙が込み上げて、私は滉太郎さんの胸にしがみついた。怖かった。すごく怖かった。

「不審者がうろついていたなら、あんまりひとりで出歩かないようにした方がいいな。明日から帰りはタクシーで帰ってきてほしい。行きは俺が送って行くよ。車も納車されたことだし」

 滉太郎さんは最近車を買った。イギリスメーカーの車で、私好みの白色の背の高い車。

「でも私の職場は霞ヶ関から距離がありますし、滉太郎さんが大変ですよね。それなら行きもタクシーで」

「いや。行きは俺が送る。俺が一秒でも長く仁奈と一緒にいたいんだよ」

 リップ音を立てて、滉太郎さんが私の頬にキスをする。私は首を反らして、滉太郎さんを見上げた。微笑む滉太郎さんと目が合って、今度は唇にキスが落ちる。

 さっきまでの恐怖は、魔法みたいに跡形もなく消え去っていた。
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