工場の闇に咲く恋 ~レンズが捉えた秘密~
三人であれこれと話し込んだあと、貞夫は疲れからかそのままソファで横になり、すぐに寝息を立て始めた。
残されたふみと愛斗は二人だけの時間を過ごすため、コンビニで買ってきた飲み物を冷蔵庫にしまい、テーブルにお菓子を広げた。グラスに氷をたっぷり入れ、ポテトチップスやチョコレートをつまみながら、他愛もない話で笑い合う。
ふと愛斗が、表情を険しくして口を開いた。
「……あいつ、ほんとムカつくんだけど、俺に向かって『死ね』だとよ。ふざけやがって」
「わかる。私もあいつのこと、大っ嫌い」
ふみも唇を尖らせ、憎々しげに言う。
「……ほんと、あいつが死ねばいいのにね」
「……うん」
静かに頷き合い、ふみがそっと愛斗の唇にキスを落とす。柔らかな感触に愛斗の心も解れ、二人は手を取り合って寝室へと向かった。
ベッドに入ると、愛斗はふみを優しく、だが激しく抱きしめ、お互いの存在を確かめ合うように、夜が明けるまで何度も肌を重ねた。
翌朝、二人はすっきりと目覚め、仕事へと出かけた。今日の仕事は山の景色を撮影すること。新緑が美しい山並みを背景に、カメラを構えてはシャッターを切り、一日中自然の中で過ごし、夕方になってから家へと帰宅した。
ほっと一息ついたところで、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、そこには幸輝が立っていた。
「何か用?」
ふみが冷たい声で問いかけると、幸輝は気まずそうに視線を泳がせながら言った。
「……やっぱり俺、あの二人のことを裏切るなんて、できません」
「……そう」
「……はい」
愛斗は無言でスマートフォンを取り出し、幸輝の目の前に画面をかざした。そこには、幸輝がふみに無理やり迫り、体を触ろうとしている姿が鮮明に映っていた。いつの間に撮られていたのか、幸輝は顔面蒼白になる。
「これ、ネットに拡散しようかな」
愛斗は冷ややかに笑いながら続けた。
「こんな動画が出回ったら、お前が経営してるあのボロい店、どうなるだろうね? 客がこれを見たら、もう誰も近寄らなくなるだろうし、お前の社会的な立場も全部終わりだ。……それでもいいのか?」
幸輝は顔を真っ赤にして声を荒げる。
「嫌だ! 俺の店のことを悪く言うな!」
「知るかよ、そんなこと」
愛斗が突き放すように言うと、ふみは突然服の前をはだけ、豊かな胸元を幸輝に見せつけた。そして、しなだれかかるように彼の足元に近づき、太ももをゆっくりとさすりながら甘えるような声で囁いた。
「お願い、幸輝さん……。私、幸輝さんのこと大好きだよ? 言うこと聞いてくれたら、たっぷりご褒美あげるからね?」
幸輝は目を釘付けにし、よだれを垂らさんばかりの顔で頷いた。
「……わかった。やります。俺がやればいいんだろ」
「ありがとう、幸輝さん。約束だからね」
「……うん」
幸輝はニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、足取りも軽く帰っていった。
玄関の戸が閉まると、愛斗はすぐにふみに向き直った。少しだけ拗ねたような、それでいてからかうような口調で言う。
「ふみ……あんなことまでして。もしかして、あいつのことが好きなのか?」
ふみは「まさか」と言わんばかりに大きく首を振り、悪戯っぽく笑った。
「まさか! 好きな訳ないじゃん。全部作戦だよ。あいつに鉄砲を盗んできてもらうための、口説き文句みたいなもの。ご褒美だなんて、できるわけないでしょ?」
「ははっ……ふみって、ほんと悪い子ちゃんだな」
「それ、褒めてるの?」
愛斗は答える代わりにふみを抱き寄せ、深くキスをした。そのまま彼女の服を脱がせ、何度も求め合い、完全に満たされてから、二人は再び服を着直した。
次の日。約束通り幸輝が玄関先に現れたので、二人は中へ招き入れた。
「……で、証拠はあるんだろうな?」
愛斗が問うと、幸輝は得意げに鞄の中から黒い塊を取り出した。拳銃だ。
「持ってきましたよ。ほら、これでいいんだろ?」
ふみが受け取り、にっこりと笑う。
「ありがとう、助かったわ」
「うん。じゃあ……俺のご褒美は?」
幸輝はいやらしい目でふみを見つめ、手を伸ばそうとする。
「ご褒美って、何のこと?」
ふみはわざととぼけた顔をして見せた。
「やるわけないじゃん。本気にしたの?」
「なっ……! 俺のこと、騙したのか!?」
幸輝が怒りで顔を真っ赤にし、奪い返そうとふみの体に手を伸ばす。その瞬間、奥の部屋から愛斗と貞夫が飛び出してきた。
「てめえ、いい加減にしろ!」
二人は怒り任せに幸輝を殴りつけ、蹴りつけ、ボコボコになるまで痛めつける。悲鳴を上げる幸輝の襟首を掴むと、玄関から外へと力任せに放り出し、扉をバタンと閉めた。
ふみは手に持っていた拳銃を愛斗に手渡す。
「はい、これ。ありがとね、助かった」
「ありがとう」
愛斗は受け取った拳銃をじっくりと眺めた。これは、実は以前自分が密造し、保管していたものだった。幸輝に「盗ませる」ことで、完全に罪を擦り付ける計画だったのだ。
二人は夜の闇に紛れ、庭の隅っこへと移動した。地面に穴を掘り、その拳銃を埋め、上から綺麗な花の苗を植える。もう誰も、ここに何が埋まっているかなんてわからない。
「よし、これで全部終わりだな」
「うん。これであいつも、もう関わって来れないでしょ」
愛斗はふみを抱き寄せ、彼女の額にキスを落とした。
「ふみ、ありがとう。お前がいてくれたから、全部うまくいった」
「うん。私たち、ずっと一緒だよ」
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