工場の闇に咲く恋 ~レンズが捉えた秘密~
愛斗は変装をし、ふみと共に買い物へ出かけた。
玄関先でふみが父に呼びかける。
「パパ、私たちが帰るまで鍵を開けないでね」
「わかってる」
貞夫の返事を背に、二人は山あいの道へと歩き出した。
今日は長く歩いて疲れたため、夕食用の弁当と明日の食材をまとめて買った。帰り道、カフェオレを手にゆっくりと歩んでいた愛斗が、ふいに足を止めた。
「ふみ……俺、このまま捕まるのかな」
ふみは黙って愛斗の手を取り、強く握りしめる。
「大丈夫。私が守るから。ここは山の奥だもの、絶対に見つからないわ」
愛斗はふみを引き寄せ、柔らかな唇にそっと口づけた。
「そうだな……ふみの言う通りだ」
「うん」
「そういえば、久しぶりに手を繋いで歩かないか?」
「いいよ」
再び口づけを交わしてから、二人は指を絡め合った。愛斗の胸には、これが最後になるかもしれないという思いが込み上げ、手の力が自然と強まった。
家に着き、鍵を開けて中へ入ると、愛斗は買ってきた弁当を貞夫に差し出した。
「ありがとう」
三人はテーブルにつき、「いただきます」と手を合わせて食べ始める。愛斗がスマートフォンを確認すると、画面には圏外の文字が浮かんでいた。
食事を済ませた後、愛斗はふみの部屋へ移り、二人でコーヒーを飲みながらお菓子をつまんだ。時がゆっくりと流れ、やがてベッドへと身を横たえると、唇を重ね合わせ、愛し合うように抱きしめ合って眠りについた。
翌朝。ふみが台所で朝食を作っていると、突然強い吐き気に襲われた。慌てて流し台へ駆け寄るが、何も出てはこない。
「ふみ、大丈夫か?」
愛斗がすぐに駆けつけ、その体を支える。
「うん、大丈夫……」
愛斗は心配そうにふみの顔を覗き込んだ。その後、貞夫が一度外へ出かけ、しばらくして戻ってくると、封筒に入った紙袋を娘に手渡した。「これを使ってみなさい」
中から出てきたのは妊娠検査薬だった。
「ふみ、お前に赤ちゃんがいるかもしれない。調べてみるんだ」
「本当に……?」
「ああ」
二人はトイレへ向かい、指示に従って検査をする。数分後、窓に浮かんだのははっきりとした陽性のラインだった。ふみは自分の体に新しい命が宿ったことを知り、胸が熱くなった。
結果を貞夫に伝えると、父は驚きながらも大きく喜んだ。三人で笑顔を交わし、昼食の支度を始めようとした瞬間、玄関の呼び鈴がけたたましく鳴り響いた。
扉を開けると、そこには真と稔が立っていた。
「なんでここに……?」
「ふみちゃん、大事な話があります」
「少し待って。部屋が散らかってるから、片付けてから……」
「そんな必要はない。逃がしませんよ」
奥から出てきた愛斗は、二人の姿を見て息を呑んだ。やがて部屋に通された真が、無表情に封筒をテーブルに置く。
「幸輝さんが亡くなったのは、お前たちのせいだ。遺書が残っていた」
彼は紙を広げ、そこに書かれた文字を読み上げ始めた。
真と稔へ
鉄砲を盗んでしまい、本当にすまない。
お前たちを裏切りたくはなかった。だが、俺にはどうしようもなかったんだ。
俺は昔からふみちゃんに片思いをしていた。そのせいで、汚い目で見てしまったこともある。皿うどんに悪戯をしたり、いつも卑しい気持ちで彼女を眺めていたり……。それが愛斗さんやふみちゃん、それに貞夫さんに知られてしまい、脅されて何でも言うことを聞くしかなくなった。
お前たちが俺の店から鉄砲を持ち出したことも、次の日から彼らに突きつけられ、口止め料のように使われた。一度、愛斗さんとふみちゃんが親密にしているところを見て、自分の欲望に負けているのを見られたことがある。その罰として、貞夫さんに手先と股間を切断されてしまった。だから稔、今後俺の体を鑑定することがあっても、その点で驚かないでくれ。
お前たちを裏切りたくなかった。だけどどうしようもなかった。こうして命を絶つことで、せめてもの詫びにするしかない。
鉄砲は一度、ふみちゃんの家の外に埋めて隠していたが、後に彼らが掘り返して持っていったようだ。
本当に、本当にすまない。子供の頃から可愛がってきたお前たちに、最後まで信用して店に来てくれたこと、心から感謝している。
さようなら。幸輝
-
玄関先でふみが父に呼びかける。
「パパ、私たちが帰るまで鍵を開けないでね」
「わかってる」
貞夫の返事を背に、二人は山あいの道へと歩き出した。
今日は長く歩いて疲れたため、夕食用の弁当と明日の食材をまとめて買った。帰り道、カフェオレを手にゆっくりと歩んでいた愛斗が、ふいに足を止めた。
「ふみ……俺、このまま捕まるのかな」
ふみは黙って愛斗の手を取り、強く握りしめる。
「大丈夫。私が守るから。ここは山の奥だもの、絶対に見つからないわ」
愛斗はふみを引き寄せ、柔らかな唇にそっと口づけた。
「そうだな……ふみの言う通りだ」
「うん」
「そういえば、久しぶりに手を繋いで歩かないか?」
「いいよ」
再び口づけを交わしてから、二人は指を絡め合った。愛斗の胸には、これが最後になるかもしれないという思いが込み上げ、手の力が自然と強まった。
家に着き、鍵を開けて中へ入ると、愛斗は買ってきた弁当を貞夫に差し出した。
「ありがとう」
三人はテーブルにつき、「いただきます」と手を合わせて食べ始める。愛斗がスマートフォンを確認すると、画面には圏外の文字が浮かんでいた。
食事を済ませた後、愛斗はふみの部屋へ移り、二人でコーヒーを飲みながらお菓子をつまんだ。時がゆっくりと流れ、やがてベッドへと身を横たえると、唇を重ね合わせ、愛し合うように抱きしめ合って眠りについた。
翌朝。ふみが台所で朝食を作っていると、突然強い吐き気に襲われた。慌てて流し台へ駆け寄るが、何も出てはこない。
「ふみ、大丈夫か?」
愛斗がすぐに駆けつけ、その体を支える。
「うん、大丈夫……」
愛斗は心配そうにふみの顔を覗き込んだ。その後、貞夫が一度外へ出かけ、しばらくして戻ってくると、封筒に入った紙袋を娘に手渡した。「これを使ってみなさい」
中から出てきたのは妊娠検査薬だった。
「ふみ、お前に赤ちゃんがいるかもしれない。調べてみるんだ」
「本当に……?」
「ああ」
二人はトイレへ向かい、指示に従って検査をする。数分後、窓に浮かんだのははっきりとした陽性のラインだった。ふみは自分の体に新しい命が宿ったことを知り、胸が熱くなった。
結果を貞夫に伝えると、父は驚きながらも大きく喜んだ。三人で笑顔を交わし、昼食の支度を始めようとした瞬間、玄関の呼び鈴がけたたましく鳴り響いた。
扉を開けると、そこには真と稔が立っていた。
「なんでここに……?」
「ふみちゃん、大事な話があります」
「少し待って。部屋が散らかってるから、片付けてから……」
「そんな必要はない。逃がしませんよ」
奥から出てきた愛斗は、二人の姿を見て息を呑んだ。やがて部屋に通された真が、無表情に封筒をテーブルに置く。
「幸輝さんが亡くなったのは、お前たちのせいだ。遺書が残っていた」
彼は紙を広げ、そこに書かれた文字を読み上げ始めた。
真と稔へ
鉄砲を盗んでしまい、本当にすまない。
お前たちを裏切りたくはなかった。だが、俺にはどうしようもなかったんだ。
俺は昔からふみちゃんに片思いをしていた。そのせいで、汚い目で見てしまったこともある。皿うどんに悪戯をしたり、いつも卑しい気持ちで彼女を眺めていたり……。それが愛斗さんやふみちゃん、それに貞夫さんに知られてしまい、脅されて何でも言うことを聞くしかなくなった。
お前たちが俺の店から鉄砲を持ち出したことも、次の日から彼らに突きつけられ、口止め料のように使われた。一度、愛斗さんとふみちゃんが親密にしているところを見て、自分の欲望に負けているのを見られたことがある。その罰として、貞夫さんに手先と股間を切断されてしまった。だから稔、今後俺の体を鑑定することがあっても、その点で驚かないでくれ。
お前たちを裏切りたくなかった。だけどどうしようもなかった。こうして命を絶つことで、せめてもの詫びにするしかない。
鉄砲は一度、ふみちゃんの家の外に埋めて隠していたが、後に彼らが掘り返して持っていったようだ。
本当に、本当にすまない。子供の頃から可愛がってきたお前たちに、最後まで信用して店に来てくれたこと、心から感謝している。
さようなら。幸輝
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