工場の闇に咲く恋 ~レンズが捉えた秘密~
愛斗はふみを部屋へと促し、扉を閉めるなり彼女をそっと抱き寄せ、柔らかな唇に何度も口づけを落とした。 
明日から始まる草津旅行への期待と、それ以上に募る不安を、言葉にする前に伝えるように。
ひとしきり愛し合った後、ふみは嬉しそうにバッグから服を取り出し、愛斗の前に広げて見せた。
「ほら、見て。明日着ていこうと思って、新しく買ったの」
それは、ほんのりと色気のあるデザインで、生地は所々透けており、肩や腕、胸元の露出も多い。続けて彼女は、その下に着る予定だった下着までを取り出す。レースがふんだんに使われた、これまで見たこともないような艶やかなものだった。
愛斗の表情が、みるみるうちに険しくなる。
愛斗はふみから服を取り上げるように手に取ると、真剣な瞳でふみを見つめた。
「ふみ、頼む。明日から旅行中、あいつ—もっちゃんと二人きりになるような状況は絶対に作るな。それに……こんな露出の多い服、絶対に着ちゃだめだ」
「どうして?」
ふみは頬を膨らませ、不満そうに眉を寄せる。
「だって愛斗くんとの旅行なんだよ? せっかくだから、可愛い服も、綺麗な下着も着て、愛斗くんに見てもらいたかったのに……」
「俺と二人きりのデートのときだけにしてくれ。今回はダメだ」
強い口調で言い切る愛斗に、ふみは「わかったわよ」と小さく返事をしたものの、明らかに心残りそうな、拗ねた表情を浮かべていた。
愛斗はため息をつき、彼女の肩を優しく抱き寄せる。
これ以上隠しておく必要もないし、彼女に自分の不安の理由を知ってもらわなければならない。それが彼女を守ることにもつながるのだから。
「誤解しないでくれ。俺がただお前のことを独り占めしたいだけなんじゃないんだ、理由をはなすよ」
愛斗は、車の中で幸輝がスマートフォンで「勝負下着」と検索し、いやらしい目つきで画面を眺めていたこと。下着売り場では、周りに誰もいないのをいいことに、「ふみちゃんとの勝負下着はどれがいいかな」と、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら品定めをしていたことを、克明に語った。
「俺が見ていることにも気づかず、あいつは勝負下着を選んでたんだたたぶんふみをさそうと思う カバンにコンドームはいってたし……俺はあいつのその目が許せない。お前のことを性的な目で、汚い欲望だけで見てるんだ。もしこのままお前が露出の多い服を着てたらあいつはますます調子に乗って、お前のことをエロい目で見てくるに決まってる。俺はそれが……不安でたまらないんだ」
言葉を紡ぐごとに、愛斗の声は震える。10年前の密造の過去も、店で身代わりになって飲み込んだ汚れも、全部俺が背負うから——だけど、お前だけは絶対にあいつの手に渡したくない。
「俺がお前を守る。絶対に二人きりになんてさせない。だけど……あいつの視線だけは、どうしようもないだろ? だから俺は、少しでもあいつの欲を刺激するようなものは、見せたくないんだ」
部屋に沈黙が流れた。
やがてふみは、自分の身に迫っていた危険を理解したのか、体を小さく震わせた。
昔から父の友人として、工場の仲間として、にこにこと優しく接してくれていた幸輝が、まさか自分をそんな目で見ていたなんて——信じたくない事実だったが、愛斗が嘘をついていないことだけはわかる。
「……そんなことしてたなんて……。教えてくれて、ありがとう、愛斗くん」
ふみは愛斗の胸元に顔をうずめる。恐怖と、自分を守ろうとしてくれる愛斗の深い愛情が、同時に心に押し寄せる。
「俺が絶対に、お前に何もさせないし、何も見せない。俺がずっと側にいるから」
「うん……ありがとう。愛斗くんがいてくれて良かった……」
愛斗はふみの頭を撫で、再びその唇に口づけを落とす。柔らかくて温かい、自分だけの存在。
すると、ふみは先ほどまでの不安げな表情から一転、急に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「……実はね、私も準備してたの。勝負下着」
「え?」
「さっき、愛斗くんがベッドで私の写真を持って……自分でしてたでしょ? 私、ちゃんと見てたんだから。愛斗くんが私だけを想って、我慢してたのわかってたから、ご褒美にあげたかったの。だから、あのときああやって……」
愛斗は顔が熱くなるのを感じた。自分の行動を見られていた恥ずかしさと、それでもなお自分だけを愛してくれるふみの深い愛情に、心がいっぱいになる。
「……俺もだよ。実は俺も、お前のために選んだんだ。明日の夜、二人きりになったときに見せてくれ……楽しみだな」
「うん、私も。愛斗くんのだけ、見せてもらうね」
二人は顔を見合わせて笑い、何度も何度も口づけを交わした。
それから二人は、明日の旅行に向けて荷物を整え、着替えや必要なものを確認し合った。ふみは危険だからと、例の露出の多い服と勝負下着を、奥の方へとしまい込んだ。

——そして翌朝。
目覚めると、窓の外は晴れ渡り、旅行日和の空が広がっていた。
二人は身支度を整え、リビングへと向かう。
すでに貞夫がテーブルについて待っており、「おはよう、二人とも」と、いつものように穏やかな笑顔で迎えてくれた。

三人で並んで座り、湯気の立つ味噌汁と焼き魚、炊き立てのご飯をいただく。
「今日から草津だな。楽しみだ」と言う貞夫の隣で、愛斗はふみの足元にそっと自分の足を絡ませ、彼女にだけわかるように笑いかけた。

これから始まる旅の中で、俺は絶対にお前を守り抜く——心に強く誓いながら、愛斗は朝ご飯を口に運んだ。
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