工場の闇に咲く恋 ~レンズが捉えた秘密~
草津での旅行を終え、帰りの新幹線の中で愛斗は幸輝と並んで座り、これからのこと、そして今までのことについて、言葉を選びながら話をした。幸輝はどこか未練がましい目をしていたが、愛斗の鋭い眼光に射抜かれると、それ以上何も言い返すことはできず、ただ黙って東京への帰路についた。
翌日。昼過ぎになり、愛斗はふみと並んで「もっちゃん」こと幸輝の店へと足を運んだ。店内には常連客や近所の人たちが数人いて、賑わっている。二人は席に着き、チャーハンや餃子など、いつもの中華料理を注文した。
料理が運ばれてくるまでの間、店の奥に置かれた漫画コーナーへ行き、本棚から適当に単行本を取り出して眺めていた。誰も見ていないのをいいことに、愛斗はふみの肩を抱き寄せ、そっと唇を重ねる。柔らかくて温かい口づけを交わしていると、入口の扉が開き、新しい客が入ってくる気配がした。
慌てて唇を離し、「戻ろう」とふみが愛斗の袖を引いた、その瞬間——
「……そういえば昔、この辺の工場でさ、鉄砲を密造してたって噂、知ってるか?」
入ってきた客のうちの一人が、大きな声で話し始めたのが耳に入った。愛斗とふみはハッと足を止め、息を潜めて会話に聞き入る。
「ああ、知ってるよ。俺の親父も昔、その工場で働いてたから、小さい頃からよく話に聞いてた。真(まこと)くんと稔(みのる)くんのお父さんたちが中心になって作ってたらしいぜ。」
「そうそう。結局、完成した鉄砲の一部がどっかに盗まれて、それっきり行方不明になったって話だ。今もどこかに隠されてるのかな……」
二人は顔を見合わせ、無言のまま店を出た。話していたのは、昔から顔見知りだった真と稔。彼らの父親が当時の工場の中心人物で、自分たちが鉄砲を作っていたこと、そしてそれが盗まれたという話が、今もこうして語り継がれている——それだけでも愛斗の胸は締め付けられるほど苦しかった。
(俺のせいだ。俺が密造に関わったから、今でもこうして話題に上る。もしこれ以上、何かがバレたら……)
愛斗は重い足取りで席へ戻り、運ばれてきた中華料理を食べながらも、まったく味がしなかった。
家へと帰り着くと、ふみがすぐに愛斗の腕に抱きつき、不安そうに言った。
「愛斗くん……さっきの話……。鉄砲、真くんと稔くんのお父さんが盗んだことになってたけど……。どうしよう。もし昔の密造のことが全部バレちゃったら……」
震えるふみを抱きしめ、愛斗もまた不安を押し殺すように言った。
「……俺が全部悪いんだ。俺があのとき手を出さなければ……。どうしたらいい……」
大丈夫だよ!」
ふみは愛斗の顔を両手で包み、真っ直ぐに見つめる。
「私が愛斗くんを守るから。何も心配いらない。……そうだ、もっちゃんにお願いしようよ。鉄砲を盗んだのは自分たちだってことにしてもらえばいい。だって幸輝には、私にあんなことした弱みがあるでしょ? あいつのことなら、何だって言うこと聞かせられるんだから」
ふみが幸輝の行いについて話し始めた、まさにそのとき。
背後から、低くて厳しい声が響いた。
「……『幸輝がエロい目で見てる』って、どういう意味だ?」
驚いて振り返ると、いつの間に帰ってきたのか、貞夫が立っていた。眉間にしわを寄せ、普段の穏やかな表情はどこにもなく、鋭い目つきで二人を見下ろしている。
「パパ……!」
「おじさん……」
突然の登場に言葉を失う二人だったが、貞夫は逃がさないというようにさらに問い詰めてくる。
「さっきから聞こえてたぞ。『弱み』だの『エロい目で見てる』だの……。一体何があったんだ? 全部話してもらおうか」
観念した愛斗とふみは、顔を見合わせ、これまでの出来事を洗いざらい打ち明けることにした。
幸輝が中華料理店で、ふみの皿に精液をかけ、自分が身代わりになって食べたこと。
草津旅行の夜、自分たちが愛し合っている隣の部屋で、幸輝がその声を聞きながら自慰行為をし、布団を汚していたこと。
食べ歩きのとき、ふみが団子を食べる姿を性的な目で見て、股間を膨らませていたこと。
温泉から上がったときも、浴衣姿のふみを下品に眺め回していたこと。
旅行中には「付き合ってる」「抱いた」という嘘を吹聴し、挙げ句の果てには「昨日セックスしてただろ」と、直接的で下品な言葉で問い詰めてきたこと。
二人は涙ながらに、これまで隠してきたすべてを話した。
話し終わると、貞夫は怒りで体を震わせ、拳を強く握りしめた。
「幸輝……あいつ、許せない……! 俺も最近、旅行中も食事中も、やたらとふみのことばっかりじろじろ見てるなとは思ってたんだ。昔からの付き合いだったのに、まさかそんな企みを抱いていたなんて……。信じられん」
貞夫は二人の肩に手を置き、力強く宣言した。
「鉄砲のことも、幸輝のことも、全部俺に任せろ。二人は何も心配する必要はない。俺が必ずけじめをつける。俺の大事な娘と、愛斗くんを、あんな奴に傷つけさせはしない」
「……パパ、黙っていてごめんなさい」
ふみが泣きながら謝ると、貞夫は柔らかく笑い、娘の頭を優しく撫でた。
「いいんだ。話してくれてありがとう。よく我慢してくれたな。もう何も怖がらなくていい」
愛斗は貞夫の言葉に、深く頭を下げた。過去の罪も、現在の問題も、すべてを受け入れてくれる存在がいることに、心の底から救われる思いだった。
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