忘れ「」私、と君
第四章 忘れ「かけている」
『花冠は難しくて作れないのー』

『じゃあ俺が作ってあげますねー。お嬢様』

『もーう!』


……懐かしい夢を見た。

そんな気がした。


目が覚めた私は夢のことなんて微塵も覚えてなくて、ただなんとなく胸の奥がざわめく感覚と……自分の目から涙が流れていることに驚いた。


「……あれ?」


痛みはないし、夢も何も記憶はない。

悲しいことなんて、この世界に来て今はない。


昨日、一昨日の記憶はある。大丈夫。


じゃあなんで涙なんか……。


とりあえずもう流れてはいない涙を拭って、朝の支度をした。

準備を終えて、今日もキッチンに行くとやっぱり彼は起きていた。


「おはよう」

「あ、おはよう。海美は朝起きれるんだ?」

「え? んー、なんとなくで起きてるし……ここって時計ないの?」


そういえばまだ時計を見かけてない。

ここ二日あまり気にしなかったけど。


あれ?見かけてないっていえば、鏡も極端に少ないような。


クローゼットにはないし、あるのって……ドレッサーぐらいじゃない?


「うん、ない。……」


紅茶を用意しながら私の質問に答えた彼は、私を見て一瞬固まった。


え、何?


「……海美泣いた? 目赤くない?」


そう言って近づいてきた。

私は慌てて顔の前で手を振る。


「起きたら、なんか涙出てただけ。大丈夫だよ」

「……そう」


彼は少し苦い顔をした後、何かを用意しに少し離れた。


数分後、「一応渡しておくね」とタオルに包まれた氷を渡してくれた。


「ありがとう」


受け取ったけど、彼はほんの少し微笑むぐらいで微妙に顔が暗い。


何?何が引っ掛かったんだろう?

それとも私が起きる前に何かあった?


「ミナトくん?」

「え? あ、ごめん。時計ね、ないんだよね」


さっきも聞いたけどね、少し苦笑してから「今日は何しよっか」なんて話題を変えた。

踏み込んではいけないような気がしたから。


「……いや、うん。なにしよっか」


そうは言うけど、彼はやっぱりどこか無理をしてる感じだし。


「……あ、ううん。ミナトくん休んでなよ。私この間見れなかったところ探検するから」


聞いたくせにって、感じだと思うけど、このまま振り回すのもなぁ。って、思って提案したんだけど。


「え?」


彼はどこか不安を感じるような、焦ったような表情をした。


「え? あ、一緒に、回る?」

「あ、いや。大丈夫。ごめん」

「そう?」


歯切れ悪いし、ほんとに大丈夫かな?


「ん?」


行かないの?とでも言うようにこちらを見てくるので仕方なく、というか……まぁ、一人になる時間も大事だよね。

と一人納得させてキッチンを出た。
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