忘れ「」私、と君
しばらくゆきを撫でて過ごしていたけど、やっぱりさっきの彼が頭によぎるので、中に移動することした。
けど、ゆきが着いて来ようとしたので抱っこして一緒に行くことにした。
城内をうろちょろしながら、あわよくば彼を見つけられないかなんて思って色々覗いてみる。
「いないねー」
……いや、ゆきは知らないかもか。
なんか、うーん。
いないなー。
自室かな。
それなら見つけられないよねー。
「ここは……あ、音楽部屋だ」
そういえばピアノ弾けるって言ってたような。
何か思い出せないかなー。
なんて思いながら、惹かれるように音楽部屋に入った。
「大きなグランドピアノ」
部屋の真ん中に堂々と置かれたグランドピアノ。
ピアノの後ろに置かれた棚を覗くと、たくさんの楽譜がしまわれてる。
「多いねー」
雰囲気か、一人の寂しさか、ゆきに話しかけながら楽譜を見る。
聞き覚えのあるような作曲家の楽譜を一冊手に取って、ピアノに持って行く。
ゆきを床に降ろして、椅子に座った。
「……弾けるかな」
どこか緊張感を持ちながら、ピアノにそっと指を置く。
楽譜を見て一音一音確認するように楽譜に書かれてる音を鳴らしていく。
はじめこそ、確認していたけれど耳に入ってくる音を認識すると、楽譜を見なくても自然と続きが弾けていた。
体が覚えてるって、こういうことなんだ。
そう思いながら、体の流れに任せた。
滞りなく進み、もうすぐで終盤に差し掛かる。そんなとき、音楽部屋の扉が勢いよく開かれた。
驚いた拍子にピアノから手を放しちゃったので、演奏はそこで中断。
ゆきも驚いたのか、私の足元に寄ってきた。
「……ミナトくん? どうかした?」
私たちしかいないので、開いたのは当たり前にミナトくんで。
でも、肩で息をするほどに走ってきたみたい、だし。
「どうしてそんなに不安そうなの?」
ゆきを抱っこして、ミナトくんのそばに向かった。
彼はやっぱりどこか不安がにじみ出てて。
「……思い出した……わけではない、か」
どこか安堵したようにそう呟いてしゃがみ込んだ。
「え、大丈夫?!」
慌てて私もしゃがんだ。
「あー、焦ったー」なんて、少し笑いながら言った。
俯いて言ってたから表情まではわからなかったけど。
そんな、そんな焦るかな?
疑問を抱えながらも、とりあえずまだ息の整わない彼の背中を撫でた。