忘れ「」私、と君



ほんの少し、そうしていれば微かに足音が聴こえた。

誰かいる。

けど、体はやっぱり動かなくて、だんだんと近づく足音に……少しだけ


来ないでほしいと思った。


待ちわびていた音なのに、どこか怖くて、動けないのも怖くて。

何もできない中、あの大きな扉が開かれた。


「……いた。よかった」


微かに、そう聞こえた気がした。


いや、遠くて聞き間違いかも。


足音の主は私を見つけた後、迷わずこっちへ歩いてきた。


「あれ、遅かった感じ?」


近くに来たのは謎の服装した青年。


ローブ……っていうやつ、かな?


青年は、私がいたのを知っていたのか。

それとも私を知っているのか。

当たり前のようにそうにこにこで問いかけてきた。


「え……と」


やっと来た。


もう会ってしまえば少しは怖さが消えた。

それでも目の前の彼はやっぱり知らないし困惑が勝った。


「……遅かったかー。ま、いいや。会えたことだし」


何もわからない。

けど目の前の彼は自己完結をしていくから何も聞けない。

ただ、隣にしゃがんできた彼を見る。


「遅かった」その言葉から、とりあえず彼は私を探してたか、私に会おうとしてたことだけはわかる。

でも、申し訳ないけど私は彼を知らない。


「……」


「ん?」


何もしゃべらない私に対してか、何?とでもいうかのように疑問を投げられる。

何か、答えなくちゃいけないのに、どうしたらいいかわからない。


「大丈夫。なに? 教えて?」


ただ静かに、そう彼は言った。

何もしゃべらない私に呆れてるわけでも、苛立っているわけでもない、そんな声のトーンで。

大丈夫、って…言われたから。


伝えなくちゃって、思った。


「……わからない。全部。自分のことも、なんでここにいるのかも、ここがどこなのかも」


途切れたりしたけど、何とか伝えた。

そのあと、彼を見てみれば特に驚いた様子も、困ったような素振りもなく、またにこっと笑いかけてきた。

逆にこっちが拍子抜けというか。


「ここにいればいいじゃん」
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