忘れ「」私、と君
第三章 忘れ「られた」
目が覚めた。

見慣れない天井に、見慣れない部屋。

少ししてから今の現状を思い出した。

なんとなく、どっと疲れが出たのか、起きる気になれなくて寝っ転がったまま辺りを見回す。


昨日はあの後ご飯食べてお風呂も入って……まるで普通の家。


「……大丈夫」


記憶がないのは相変わらずだけど昨日のはしっかりある。

確認をした後ようやく私は動き出した。着替えて、髪をセットして。

そうしてる間もこれからのことを考えてはみたけど、やっぱり思い出さないことには何もできない。


ため息を一つ零してから部屋を後にした。


「あれ、おはよう」


キッチンの方に出るとすでに彼が起きていて紅茶を飲んでいた。

私に気づくと少し驚いたように見てから挨拶をしてくれた。


あれって、何?まぁ、いっか。


「おはよう」


……今日は何かわかるかなー?

あれ?


「朝ごはんは?」


私より先に居たらしき彼の前にも、キッチンにも料理をしたらしき形跡も、何もなかった。


「え、あー……いる?」

「え? んー……」


よく考えたらあんまりお腹空いてないかも。


「あ、果物食べる?」


そう言って彼はキッチンに消えた。


えー、何あの反応。

気になるじゃん。


そう思いながらも大人しく椅子に座って待つ。


「はい、好きなの食べてー」


数分後、大きめのお皿にマスカットとか、木苺らしきものとか何種類かの果物を乗せてきた。


「ありがとう!」


少しずつつまんでいると、彼がいる?と聞いた理由がなんとなくわかった。


朝はあんまり食欲がない。

別に食べられないとかじゃないんだけど……。


「あ、そうだ。ねぇねぇ」

「んー? なに?」

「呼びにくいから名前、仮でいいからつけていい?」


今朝準備しながらずっと考えてたことを訊いてみた。

さすがに二人だとしても名前がないはやっぱり呼べないし、不便。

だから思い出すまででもいいからつけようかなって思った。


「俺の?」

「そう!」


彼は少し笑ってマスカットを一粒取ってから「いいよ」と言った。

拒否される可能性もあるなーって思ってたから案外素直に受け入れられてちょっとびっくりした。


「で、なんか考えてるの?」

「え、あーうん! 考えたよ。ミナト、とかどう?」

「……ミナト」


彼は小さく呟いた後マスカットを口に含んで、どこか嬉しそうに笑った。


「いいじゃん」
< 8 / 11 >

この作品をシェア

pagetop