鬼上司のギャップ沼は落ちたら抜け出せない
「全然ダメ。なんだこの資料」
 前言撤回。やっぱり佐久間さんは普通に怖い。
 仕切りがあるだけの簡易的なミーティングスペースで、私は佐久間さんと向かい合いながら怒涛のダメ出しを受けていた。
「スライド五ページ。課題からの提案の流れ、論理が飛躍してる。ここはちゃんと取引先の実績をグラフで見せて、うちのシステムがどう改善できるかを順序立てて説明しないと。八ページ。これ、前のプレゼン資料の使い回しだろ。この会社向けのシステムでこの訴求ポイントはない。もっとちゃんと考えろ。それと九ページ」
「待ってください! えっと、まずは五ページ目ですか?」
 共有したプレゼン資料を手元のパソコンでスクロールしていく佐久間さんにまったくついていけない。慌てて止めると、佐久間さんは仏頂面のままゆっくり話してくれた。
 指摘された内容はごもっともなものばかりで、私はそれを必死に書き留めていく。
「色々言ってるけど、この前の資料よりはちゃんと考えられてるよ。グラフの見せ方が良くなってる」
「あ、ありがとうございます……」
 二十個くらい指摘事項を並べた後に言われてもと思いつつ、口には出さない。
「これだけ文句つけた後に言われてもって思ってるだろ」
「えっ?!」
「顔に出てる」
 ハッと自分の顔に手をやると、頬杖をついた佐久間さんがかすかに笑った。私はその微かな笑顔に目を奪われた。
「おまえ、そういう正直なとこは変わんないよな」
「その顔……」
「あ?」
「いつもそんなふうに笑っていたらいいんじゃないですか?」
「は? なんだいきなり」
 思いつきがつい口に出てしまった。佐久間さんが眉根を寄せながら小さく首を傾げる。
「佐久間さんってよく怖いって言われがちですし、もうちょっと笑ってた方が好感度上がるかなぁと思いまして」
「失礼だな」
「すみません」
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