鬼上司のギャップ沼は落ちたら抜け出せない
毎週木曜日は週間少年ステップの発売日。
朝起きてすぐ電子書籍を購入して、朝ごはんを食べながら『悪滅の剣』の最新号をチェックするのが毎週の楽しみ……なのだけれど。
「ううう……なんで、篠嗣さん……」
今週号、なんと私の推しである篠嗣さんが死亡してしまったのだ。
劇場版で如月先輩を殺した悪魔・ルシファーと相討ちになった。おかげで朝食の食パンも喉をまったく通らない。
ルシファーは同志を殺された篠嗣さんにとって宿敵とも言える。胸熱すぎる展開。そう興奮していた四週前の私を殴りたい。まさか、まさか、篠嗣さんが死んじゃうなんて。
放心状態になりながら、スマホをスワイプする。
最終ページ。血を流し、仰向けに倒れながら笑う篠嗣さんの最期の言葉『仇は取ったぜ、相棒』で、また涙がぶわりと込み上げた。
息を引き取った時の篠嗣さんと同じように私も上を見上げる。心にぽっかり穴が空いたみたいだ。
このまま家でいたらいつまでも悲しみに浸ってしまいそうで、私は泣きすぎて気怠い体に鞭を打って無理やり立ち上がった。
パサパサになったパンも一緒に用意したインスタントコーヒーも、口をつけないまま捨てる。もったいないけれど、今は食べる気力がない。
化粧もする気が起きず、身だしなみとして化粧下地を塗りこんで眉だけ描いてから、マスクをして家を出た。
いつもの工程を省いたおかげで、普段より一時間も早く駅に着いた。通勤電車は空いていて、奇跡的に席に座れた。
規則的な振動に揺られながら後頭部に朝の柔らかい日差しを感じていると、嵐のように荒れていた心も落ち着きを取り戻してくる。
篠嗣さん、死んじゃったんだなぁ。降ってきた鉛のような現実を静かに受け入れる。
会社の最寄駅に着くと空腹を感じて、我が社のオフィスビルの一階にあるコンビニで『クリーム入り超BIGメロンパン』とカフェオレを買った。朝からショックに見舞われたから、糖分を摂らないとやってられない。
何も考えずにエレベーターパネルを操作して営業部のフロアに着いたが、このまま自席に行くのもなと躊躇した。
営業部はフレックス制なので、すでに仕事を始めている人もいるだろう。そんな中でのんびり朝食を食べられるほど、私は図太くない。
私はいつもと違って廊下を直進し、一番端にあるリフレッシュメントコーナーへ足を運んだ。
ソファがいくつか置いてあって誰でも使える休憩スペースなのだが、場所が奥まっているせいかいつも人気がない。のんびりするにはもってこいだ。
ドアを開けて中に入ると、長ソファに先客がいて私は足を止めた。
その男性はソファの背もたれに頭を預けて、腕で顔を隠していた。
座面の上に投げ出している反対の手にはスマホ。画面を見て私はハッと息を呑んだ。
悪滅の剣最新話最終ページ、篠嗣さんの死亡シーン……!
遠くても見間違えるはずがない。今朝、食い入るように読み、そして涙したばかりだ。
この人も悪滅読んでるんだ。興奮すると同時に、また衝撃シーンを見てしまって心臓が落ち着かなくなる。
でも、この男性が身につけているドットストライプのスーツと革靴には見覚えが。
「……佐久間さん?」
声をかけると、佐久間さん(仮)の左足のつま先がピクンと動いた。でも腕で顔を隠したまま返事をしてくれない。
人違い? でもこんなおしゃれなスーツを着こなせる人は営業部で佐久間さんしかいないと思う。顎のラインも佐久間さんにそっくり。絶対佐久間さんに違いない。
ということは、佐久間さんも悪滅読んでるってこと?!
二重の衝撃を受けて佐久間さんと思しき人物を信じられない気持ちでジッと見つめていると、ズッと鼻を啜る音が聞こえた。
朝起きてすぐ電子書籍を購入して、朝ごはんを食べながら『悪滅の剣』の最新号をチェックするのが毎週の楽しみ……なのだけれど。
「ううう……なんで、篠嗣さん……」
今週号、なんと私の推しである篠嗣さんが死亡してしまったのだ。
劇場版で如月先輩を殺した悪魔・ルシファーと相討ちになった。おかげで朝食の食パンも喉をまったく通らない。
ルシファーは同志を殺された篠嗣さんにとって宿敵とも言える。胸熱すぎる展開。そう興奮していた四週前の私を殴りたい。まさか、まさか、篠嗣さんが死んじゃうなんて。
放心状態になりながら、スマホをスワイプする。
最終ページ。血を流し、仰向けに倒れながら笑う篠嗣さんの最期の言葉『仇は取ったぜ、相棒』で、また涙がぶわりと込み上げた。
息を引き取った時の篠嗣さんと同じように私も上を見上げる。心にぽっかり穴が空いたみたいだ。
このまま家でいたらいつまでも悲しみに浸ってしまいそうで、私は泣きすぎて気怠い体に鞭を打って無理やり立ち上がった。
パサパサになったパンも一緒に用意したインスタントコーヒーも、口をつけないまま捨てる。もったいないけれど、今は食べる気力がない。
化粧もする気が起きず、身だしなみとして化粧下地を塗りこんで眉だけ描いてから、マスクをして家を出た。
いつもの工程を省いたおかげで、普段より一時間も早く駅に着いた。通勤電車は空いていて、奇跡的に席に座れた。
規則的な振動に揺られながら後頭部に朝の柔らかい日差しを感じていると、嵐のように荒れていた心も落ち着きを取り戻してくる。
篠嗣さん、死んじゃったんだなぁ。降ってきた鉛のような現実を静かに受け入れる。
会社の最寄駅に着くと空腹を感じて、我が社のオフィスビルの一階にあるコンビニで『クリーム入り超BIGメロンパン』とカフェオレを買った。朝からショックに見舞われたから、糖分を摂らないとやってられない。
何も考えずにエレベーターパネルを操作して営業部のフロアに着いたが、このまま自席に行くのもなと躊躇した。
営業部はフレックス制なので、すでに仕事を始めている人もいるだろう。そんな中でのんびり朝食を食べられるほど、私は図太くない。
私はいつもと違って廊下を直進し、一番端にあるリフレッシュメントコーナーへ足を運んだ。
ソファがいくつか置いてあって誰でも使える休憩スペースなのだが、場所が奥まっているせいかいつも人気がない。のんびりするにはもってこいだ。
ドアを開けて中に入ると、長ソファに先客がいて私は足を止めた。
その男性はソファの背もたれに頭を預けて、腕で顔を隠していた。
座面の上に投げ出している反対の手にはスマホ。画面を見て私はハッと息を呑んだ。
悪滅の剣最新話最終ページ、篠嗣さんの死亡シーン……!
遠くても見間違えるはずがない。今朝、食い入るように読み、そして涙したばかりだ。
この人も悪滅読んでるんだ。興奮すると同時に、また衝撃シーンを見てしまって心臓が落ち着かなくなる。
でも、この男性が身につけているドットストライプのスーツと革靴には見覚えが。
「……佐久間さん?」
声をかけると、佐久間さん(仮)の左足のつま先がピクンと動いた。でも腕で顔を隠したまま返事をしてくれない。
人違い? でもこんなおしゃれなスーツを着こなせる人は営業部で佐久間さんしかいないと思う。顎のラインも佐久間さんにそっくり。絶対佐久間さんに違いない。
ということは、佐久間さんも悪滅読んでるってこと?!
二重の衝撃を受けて佐久間さんと思しき人物を信じられない気持ちでジッと見つめていると、ズッと鼻を啜る音が聞こえた。