クールな敏腕上司の素顔が甘すぎて蕩けそうです。

①①

「実は出張に来た時にここを案内したいと思ってたから、早速連れてこられて良かった」

「私をですか」

「いつも頑張ってくれてるご褒美にな」

 言いながら、桐谷の前髪が額に触れる距離にぐいと顔を寄せてくる。
 何事かと目を丸くすると、「マスク、なくていいじゃん」ゴムに指を引っ掛けて外された。

「彼女でもない人にそんなことして怒られないんですか?」

「誰に?」

「だって、指輪……」

「あぁ」

 桐谷は思い出したように左手を広げる。そこにはやはり何もなかった。
 けれど、指輪の痕は残っている。ずっとその場所を束縛していたような窪みが、輪になって存在感を放っている。

 翠葉は無意識に唇を結んだ。そして次の瞬間、自分がショックを受けていると気付く。

 まさか自分が桐谷の恋愛対象なんかになれるはずもないし、そもそも、今は好きな人すらいないではないか。
 なのに何故、知りもしない人を想像して敗北を感じているのか、自分自身が分からなくて戸惑いを隠せない。

 けれど、桐谷の言葉に今度は瞠目としてしまった。
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