クールな敏腕上司の素顔が甘すぎて蕩けそうです。

①②

「あれ、ダミーだから」

「ダミー?」

「女避けのために付けてる。何年か前にストーカーされてね。仕事にも支障出まくりだし、精神的にも参っちゃって。だから、仕事でもプライベートでも、人前に出る時は嵌めてるんだ。そうだった、今日はもう誰にも会う予定がなかったから、シャワー浴びる前に外したんだった」

「じゃあ、彼女だとか奥様だとかは」

「どっちもいないよ」

「へ……ぇ……」
 安堵してしまった。
 それでもう、自分の気持ちを認めざるを得なかった。翠葉は桐谷に完全に恋に落ちてしまったのだと。
 かといって、彼女にして欲しいだなんて烏滸がましいことは言わないが。

 せめて本人のいない所で自覚したかった。
 どんな顔で隣にいればいいのか。恋愛経験の乏しい翠葉には自然体でいるのは無理がある。

 そんな翠葉に桐谷は「気になってた?」と意地悪な質問を投げてくる。

「いや、そうじゃなくて。誰も桐谷さんのプライベートを知らないよねって話をしたことがあるってだけです」

「なんだ。気にしてくれてるって期待したのに」

 本心なのか、冗談なのか、判断が出来ないような台詞を言いながら、桐谷は翠葉の食べ終わったアイスのカップとマスクを取り、袋にゴミをまとめる。

「――思わせぶりなことを言ってると、私みたいなのに狙われますよ」
 冗談だとアピールするように笑いながら言う。

 ずっとダミーの指輪を嵌めているということは、今は彼女を作る気もないという証だ。なのに、期待させるのはズルいのではないか。

 なのに桐谷ときたら「じゃあ、シュミレーションしてみよう」と言い出した。
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