クールな敏腕上司の素顔が甘すぎて蕩けそうです。

①④

「さ、部屋に戻って休もう」手を握ったまま立ち上がる。急に無口になるとかやめてほしい。

 顔を逸らしたまま歩く桐谷の表情は読み取れない。一度だけメガネを押し上げ、鼻を啜った。

「こんなんじゃ、ドキドキして寝られません」
 精一杯の憎まれ口を叩く。

 握られている手の大きさの違いを感じてしまう。自分よりも体温の高い手に包まれて、しっかりと自分の気持ちを自覚しろと言われているみたいだった。

 エレベーターに乗っても目を合わせられない。眼鏡と前髪で上手いこと隠れた表情は、やはり翠葉からは見られなかった。

「寝られなかったら、いつでも呼べよ。っていっても俺も男だから、危ないかもだけど」

「よっ!! 呼びません!!」
 あはは……と笑って桐谷は翠葉の手を離した。

「顔、真っ赤。かわいい」
 指で翠葉の頬を撫で、ふわりと微笑む。

「じゃあ、また明日。おやすみ」
 ひらひらと手を振り、後腐れもなく自分の部屋へと戻ってしまった。

「だから、ズルいんですって」

 これから三週間、こんな甘い夜が続けばとてもじゃないが身が保たない。翠葉はドアを閉めるなりその場にしゃがみ込んで、しばらく悶絶する羽目になったのだった。
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