クールな敏腕上司の素顔が甘すぎて蕩けそうです。

 それでも桐谷は褒める時はしっかりと褒めてくれる人である。
「そこまで怖くはないと思うけど」

「翠葉先輩は“シゴデキ”だからですよぅ。っていうか、桐谷課長補佐の恋人だか奥様だか知りませんけど、怖くないんですかね? それともプライベートでは優しいとか……いや、全く想像できません」
 震えているポーズのまま続ける。

 確かにそれは羽依だけではなく他の社員も感じていることではある。桐谷は左手の薬指にシンプルなデザインの指輪を嵌めているが、プライベートは誰も知らない。仕事以外の話をしているのを聞いたこともない。
 秘密主義なのか、単純に誰も聞けないのか……その両方な気もする。

「ねぇ先輩、もし私が何か失敗でもしてて『新人教育をしっかりしろ』なんて怒られたら、ごめんなさい。先に謝っておきますね」

 デスクの引き出しからチョコレートを取り出して両手で手渡された。特に思い当たる節もないようで、反省もしていないのは見てとれる。お調子者だけど、翠葉に懐いてくれている可愛い部下だ。

「謝んなくていいよ。別に何も失敗してないでしょ。でも、チョコレートはもらっておくね。先々週、啓介を誘った対価ってことで」

 カカオ68%の板チョコを一口齧ると、ほろ苦さの中にほんのりと甘さを感じる。

 時計を見ると指定された時間になろうとしていたので席を立つ。
「そろそろ行かなきゃ。じゃあ、お疲れ様。ファイルだけ共有しておいてね」

「はぁい」
 羽依のアンニュイ返事を背中で受け、桐谷の許へと向かう。

 会議室のドアをノックすると、直ぐに「どうぞ」と返ってきた。
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