クールな敏腕上司の素顔が甘すぎて蕩けそうです。

 振り返ると見知らぬ男性が立っている。

 高身長にサラサラの髪、眼鏡をかけていてTシャツの上にフルジップのパーカーを羽織り、ジーパンを穿いている。
 その辺の男であれば野暮ったくなるファッションだか、この人は着こなしていると思ってしまう。
 年齢は自分と同じか少し上くらいか……。

 けれど翠葉はK県は初めて訪れたし、勿論知り合いなどいない。けれど今はっきりと『蒼井』と名前を呼ばれた。
 
 虚無の顔を向けて固まっていると、その男性はふっと笑い「あ、すまない。俺だ、桐谷」と眼鏡を外し、手で前髪を持ち上げる。

「え!? 桐谷さんですか?」

「さっきシャワー済ませてきたから、髪下ろしてるの忘れてた。誰か分からなかったよな」
 髪をもう一度、手櫛で整える。眼鏡もかけると仕事中の彼よりもぐっと若く見える。

「眼鏡もですし、服装もですし。何もかもが違いすぎて」

「そんなに違うかな。そりゃ一応TPOは弁えてるけど」

「全然、違いますって!!」
 驚きすぎて、つい熱のこもった声を出してしまった。桐谷は翠葉の興奮した様子に哄笑した。

「蒼井は意外と変わらない」なんて言われ、焦って「スッピンだからマスクで顔を隠してますし……」などと訳の分からない返事をしてしまう。

 でも考えてみればマスクをしていても自分だとバレているあたり、本当に仕事とプライベート(しかもほぼ部屋着)でも大差はないのだろう。
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