クールな敏腕上司の素顔が甘すぎて蕩けそうです。

 桐谷の左後ろを歩いているが、袖が邪魔で手元が見えない。見間違えてはいないはずだ。

 何故、指輪を外しているのだろう。恋人だか奥様だか知らないが、三週間も離れて過ごすから、そんな存在はいないことにしようとしているのか。
 いや、桐谷が自らモテるための隠蔽などするとは思えないし、逆に指輪くらいじゃ諦めない女性の方が多いだろう。

 真相を確かめたいが、上司のプライベートなど烏滸がましくてとても訊けない。

「き、桐谷さんも……いちごのアイスとか、食べるんですね」
 精一杯の社交辞令で沈黙を避けようと言葉を繋ぐ。

「職業、スウィーツの商品開発だし、元々甘党だよ」

「そうですけど……あまりにもイメージが湧かなくて」

「ねぇ、俺って蒼井にどんな印象持たれてるの?」
 眉を下げ、苦笑いを浮かべる。そんな表情は仕事中に見たことがない。

「桐谷さんは自分に厳しくて、完璧主義で、合理主義って感じで、隙がなくて……」

「そんな堅苦しいイメージなんだ。一応、役職柄チームをまとめないといけないから、新人から怖がられてるのは仕方ないとは思ってるけど。でも蒼井は結構意見ぶつけてくるし、俺は手応えもあって心地良さすら感じてたんだけどな」

「う……生意気ですみません」

「褒めてるんだよ。俺にさえ意見を言えない人が商談も何もできるわけないだろ」

 桐谷の腕が伸びてきて、翠葉の髪をポンポンと軽く撫でる。眼鏡越しに目が合うと、桐谷が目を細めて微笑んだ。
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