鯨のうた

中原専務について行き、着いた場所は小さな面談室だった。

テーブルを挟み、中原専務とわたしは対面にソファーに腰を下ろす。

すると中原専務は、穏やかな表情で「いやぁ、突然呼び出して悪いねぇ」と言った。

「いえ、大丈夫です。それで、わたしに話とは何でしょうか」

嫌な予感からつい声も表情を強張ってしまうわたし。

そんなわたしに中原専務は、早速本題について口を開いた。

「雨龍くんから、話はあったかな?」
「雨龍課長から···ですか?何の事ですか?」

わたしがそう訊くと、中原専務は一つ溜め息をつき「やはりまだ言ってなかったのか」と呟いた。

「それなら、わたしから率直に言わせてもらうが、露草さん···雨龍くんとは、別れてほしいんだ」

中原専務の口から飛び出す言葉に、わたしは困惑する。

(優作さんと···別れる?)

どうしてそんな事を中原専務に言われなくてはいけないのか―――
わたしには、さっぱりわからなかった。

「中原専務···、それはどういう事ですか?」
「あー、いやぁ〜、実はだね、うちの娘が先日、お見合いに失敗してしまってね。娘ももう29だし、30手前で焦っているんだよ。それで前に雨龍くんとのお見合いの話があったものだから、雨龍くんの写真を見せてほしいと言われて娘に見せたら、娘が雨龍くんに一目惚れしてしまってねぇ〜!」

中原専務はそう言って「あはははは!」と笑っていた。

「すぐに会いたいって言うもんだから、先日新年会というていで雨龍くんとお見合いをさせたんだ。そしたら、娘が雨龍くんに惚れ込んでしまってね。娘がここまで本気になるのは初めてなんだよぉ」

嬉しそうにそう話す中原専務を見て、やはり先日の新年会が"お見合い"だった事を知る。
"新年会"だと言えば、優作さんも断る事をせずに来ると思い、そう言ったのだろう。

そんなの、騙したのと同じじゃない?―――
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