鯨のうた
Story.9
優作さんからの連絡を避けて、一夜が明けた。
もちろん、睡眠などとれておらず、目の下のクマに泣き腫らした目で酷い顔だ。
本当は会社に行きたくない。
優作さんにどんな顔で会えば良いのか分からないから―――
しかし、こんな私情で休むわけにもいかず、わたしは気が重いまま電車に揺られた。
(優作さんに会ったら···、何て言えばいいだろ)
そんな事を思いながら、深い溜め息をつく。
そして、会社の最寄り駅で降りたわたしは改札を抜け、会社へ向けての道を歩き出そうとした。
「―――千衣っ」
その声にわたしは思わず足を止める。
人混みの中でも聞き分けられる程、優しくて大好きな声―――
「···優作さん」
そこには、駅前の出入口横に立つ優作さんの姿があった。
優作さんはゆっくりとこちらに歩み寄って来ると、心配そうな表情で「体調は?大丈夫?」と言った。
「はい、大丈夫です。昨日はごめんなさい···」
そうは言ったが、俯くわたしは優作さんの顔を見ることが出来なかった。
優作さんとは、会うのが気まずいはずだった。
それなのに何故だろう···、会えて、声を掛けてもらって安心する自分がいた。
わたし、本当は会いたかったんだ。
でも···、別れを切り出されるんじゃないかって不安だった···―――
本当は、今すぐに抱き締めてほしい。
「謝らないで。俺も謝らないといけない事があるし···」
そう言う優作さんの声色は、低く灰色が混ざったような複雑な色をしていた。
(優作さんが謝らなきゃいけない事?)
何だろう···
それってもしかして···
もう一緒にいられないから?―――