鯨のうた
「"一緒にいたって、何の特もない"?何で僕の幸せを、あなたに決められなくてはいけないんですか?僕の幸せは、千衣の傍にいる事です。過去のトラウマから、恋愛に対して前向きになれず、女性を拒み続けてきた僕の心を解いてくれたのは、千衣です」
優作さんの真っ直ぐな言葉にわたしは涙のブレーキがきかず、思わず涙を流してしまう。
こんな大勢の社員がいる前で···
そんな事を言ってくれるだなんて―――
「僕が愛する女性は、千衣だけです。千衣以外の女性との結婚なんて、考えられません」
(え···今、何て?け、けっ···結婚···?)
わたしが目を見開いた瞳からポロポロと涙を溢していると、優作さんの言葉が面白くなかった様子の梨花さんが顔を赤くして怒り始めた。
「ゆ、優作さんおかしいんじゃない?!どう見たって、わたしの方が美人でいい女でしょ?!それなのに、こんな女を選ぶっていうの?!」
そう言って、大きな手振りで梨花さんはわたしを指差した。
梨花さんの怒りに周りの社員たちがざわめき始める。
しかし、優作さんの表情は一向に変わらず真剣な眼差しのままだ。
「確かに梨花さんは綺麗な方です。しかし、僕には魅力的に感じません。僕の瞳(め)には、千衣の方が何倍も···何百倍も魅力的に見えています。それは、この先もずっと変わることはありません」
優作さんの言葉に梨花さんは恥をかかされたような表情で「はああ?!」と声を響かせた。
そして、梨花さんは「パパに言ってやるから!!!後悔したって、遅いんだからね!!!」と言い捨て、高いヒールの音をカツんカツンと響かせながら、エレベーターの方へ向かって行った。
きっと、中原専務のところへ言いつけに行くつもりなのだろう。
「···優作さん―――」
わたしは不安気にそっと優作さんを見上げた。
こんな大勢の社員の前で中原専務の娘さんを盛大にフッてしまったのだ。
優作さんがただで済むわけがない。
しかし優作さんはスッキリしたような様子で、いつもの優しい穏やかな表情を浮かべ、わたしに微笑みかけてくれた。
「今は時間もないから、昼に話そうか。いつものところで、いいかな?」
「···はい」
それからわたしたちは、それぞれの部署へ向かった。
もちろん、周りの社員たちからの視線は凄まじいものだった。