鯨のうた
「断れば、何も無かったように"はい、そうですか"だけで終わるわけが無いのは最初から分かっていたからね。そうなれば、自分がどうなるか検討はついてた。でも、俺のせいで千衣の居場所まで無くなってしまったら···って考えたら、どうするのが一番なんだろうって」
そう言う優作さんは、どこか自分を責めているように感じた。
わたしからすれば、責める要素なんてどこにも見当たらない。
婚約の話をその場で断ってくれていた事を知れただけで、わたしは充分だった。
「俺は会社を辞める覚悟でいた。でも、千衣を残してはいけない···。俺が責任を持って、千衣を支えたいと思った。でもさ、まだ付き合い始めたばかりの俺なんかに"ついて来てほしい"だなんて···千衣からしたら、不安しかないだろうなって―――」
不安そうにそう話す優作さんの言葉に、わたしは「そんな事ないです!」ときっぱりと言った。
すると優作さんは「えっ···」と驚きを漏らしながら、目を見開きわたしを見た。
「わたしは···、どんな事があっても、優作さんの傍にいたいです。ついて行きたいです」
「千衣···、でも苦労かける事があるかもしれないんだよ?」
「優作さん。さっき、"結婚"って言葉、言ってましたよね?」
わたしがそう言うと、優作さんは「あ、あぁ···ごめん。気が早すぎだよね」と恥ずかしそうに首に手を置いた。
「いえ、そうじゃなくて···。もし、いずれ結婚ってなれば、それは支え合いじゃないですか?どちらかだけが背負うんじゃなくて、支え合いが結婚って事なんじゃないですか?」
「支え合い、かぁ···」
「はい。だから···、一人で頑張ろうとしないでください。優作さんは独りじゃなくて、隣にはわたしがいます」
わたしはそう言って、強く握り締められている優作さんの拳に手を乗せた。
すると、優作さんの手が緩むのを感じ、それから優作さんはわたしの手を握り返してくれた。