鯨のうた
「いや、だって、わたし本当に何も無いですよ?言い寄られたりとかも無いですし」
「いや、それはねぇ、露草さんが高嶺の花だからだよ」
その"高嶺の花"発言にわたしはつい吹き出しそうになってしまい、慌てて口元を塞ぐ。
それからわたしは、「もう、からかうのやめてくださいよぉ」と言って、少しムッとしたような態度を取った。
「からかってなんか無いよ。俺は本当の事しか言ってないから。露草さんの話してる男たち、結構いるよ?」
「わたしが···高嶺の花?ふふっ、絶対にないです」
「本人は無自覚なんだ」
「···というか、もう男は勘弁です。疲れました」
わたしがそう言って、お通しの牡蠣をつまむと、雨龍課長は「あー···、さっき意味深な事言ってたもんね」と言い、生ビールをクッと飲んだ。
「―――で?何があったの?」
わたしの顔を覗き込むようにしながら、雨龍課長は言う。
わたしは「んー···」と唸った後、「つい最近、騙されました」と正直に話をした。
「騙された?」
「はい。お金取られて、逃げられました」
「えぇ?!いくら?」
「···8万」
わたしがそう答えると、雨龍課長は一瞬黙って、それから「かぁ〜···、大金過ぎず、微妙なとこくるねぇ」と言った。
「旅行に行こって言われて、手配とかは向こうがしてくれてると思ってたんです。それでお金をわたしの分も立て替えてるって言われたから、早く返さなきゃって思って、指定された金額を渡したら、連絡がこなくなりました。」
「···わーお。それ、計画的にやられてるね」
「わたし、いつもそんなんばっかりで···、もちろん騙された事は悲しかったですけど、それより···何で気付かなかったんだろうって···、自分に呆れました」
わたしがそう言って、レモンサワーをグッと飲むと、そんなわたしの様子を眺めた雨龍課長は「···その男はさ、そんな事ばっかり繰り返してる奴なんだよ。だから、気付くのは難しかったかもね」と、静かに諭すように言った。