鯨のうた
Story.2
雨龍課長と初めて二人きりで飲みに行った次の日。
朝、会社に出社すると、偶然エレベーター前で雨龍課長に会った。
「あ、露草さん。おはよう」
「おはようございます、昨日はご馳走さまでした」
わたしは周りに聞こえないように控えめにそう言った。
それなのに、雨龍課長ときたら「大丈夫?二日酔いになってない?」と、普通に話してくるのだ。
「大丈夫ですよ。そんな二日酔いになるほど、飲まなかったので」
「あ、そうなの?じゃあ、露草さんそこそこ飲めるんだ」
「んー、そうなんですかね?」
「昨日はお詫びだったんだから、思う存分飲んでくれて良かったのに」
「嫌ですよ···、飲み過ぎてみっともない醜態さらしたくないんで」
「そうなっても、ちゃんと家まで送り届けたけどなぁ」
「そういう問題じゃないんですよ」
そんな会話で「ははっ!」と雨龍課長は笑う。
そして、エレベーターがきて扉が開くと、雨龍課長は「昨日は、久しぶりに楽しかったよ。ありがとう」と言い、エレベーターのボタンを押して、扉が閉まらないようにしてわたしが先に乗れるように促してくれた。
(昨日、雨龍課長···楽しんでくれてたんだ)
わたしはそんな事を思いながら、「ありがとうございます」と会釈し、先にエレベーターに乗らせてもらった。
それから雨龍課長も乗り、後から駆けて乗ってきた社員が数人いた。
エレベーターの中での会話は無い。
そして、わたしは営業部がある5階で雨龍課長より先にエレベーターを降りる際、周りに気付かれないよう雨龍課長に会釈してからエレベーターを降りた。
雨龍課長は微かに微笑み、小さく手を上げて応えてくれていた。
(···わたしも、昨日は楽しかったなぁ)
そう思いながら、わたしは営業部のオフィスへと入って行った。