鯨のうた

それから、いつもと変わらぬ一日が始まる。

わたしが担当させてもらっている営業さんは、川崎(かわさき)さんという40歳の男性だ。
営業成績はそこそこ、眼鏡を掛けた控えめで真面目な既婚者。

それからもう一人は、国枝(くにえだ)さんという35歳の男性。
ちょっとチャラそうな容姿で口が上手い、雨龍課長とは同期らしい。

早速、朝イチから国枝さんの「千衣ちゃん、おはよう!今日も美しいねぇ!」という社交辞令から始まり、作成を頼まれていた資料を渡し、川崎さんに頼まれた事務用品の発注、川崎さんと国枝さんのスケジュールを把握しながら業務を進めていった。

お昼休憩時は、一人社員食堂で280円で食べられる日替わり定食を食べ、最後に温かいお茶を飲むのがルーティーンになっている。

わたしは基本的に誰かとつるんだりせず、一人で過ごす事を好んでいる。
女という生き物は面倒だ。

仲間をつくっては、あーでもないこーでもないと話をして、必ずその中にはリーダー的な存在がいて、気を使いながら取り繕っている人もいる。

そういうのが面倒で、わたしはいつも一人で過ごすようにしているのだ。
だから女性社員たちからは、きっと良い印象はないだろう。

それでも気にしない。それでいい。
そう思いながら過ごしているのだ。

午後もいつもと変わらない。
こうして、今日も無事に定時を迎える。

そう思っていた―――

「うわぁ、どうしよぉ〜!まだ全然終わらないよぉ〜!」

そう嘆いていたのは、わたしのデスクの二つ横のデスクを使っている中谷(なかたに)さんというわたしより一年後に入社した27歳の営業事務の女性だ。

どうやら、定時目前なのにも関わらず、仕事が終わりそうもないらしい。

「竹浪(たけなみ)さん、30分前になって"今日中に"って、仕事振ってくるんだもん。もう勘弁してほしいよ。今日、合コンあるのにー!」

その嘆きを聞き、(竹浪···)と名前を心の中で呟きながら、わたしは溜め息をついた。
竹浪航(たけなみ わたる)、営業成績がトップのわたしの同期なのだ。
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