鯨のうた
「はぁ···お腹空いたなぁ」
会社を出て、真っ暗になった空をふと見上げて呟く。
そのまま近くの牛丼屋かお蕎麦屋さんで夕飯を済ませても良かったが、わたしはそこへは寄らず、自宅近くのスーパーで割引になったお弁当を買い、帰宅した。
今日も誰も居ない家の中に「ただいまぁ」と呟いて、リビングに明かりを灯す。
カーテンを閉め、バッグを肩から下ろしながらソファーに腰を落として背もたれにもたれ掛かると、わたしは一つ深い溜め息をついた。
それから冷たいほうじ茶を用意したテーブルに先程買って来たスーパーの割引弁当の前で手を合わせる。
「いただきます」
今日はチキン南蛮弁当だ。
自分で作ったことは無いが、チキン南蛮は好きだ。
チキン南蛮を一口食べて、白米も口へと運び、ゆっくりと味わう。
しかし、美味しいはずなのに、何かが物足りないような気がした。
何だろう、何が物足りないのだろう―――
一人で食べる事には慣れているはずだ。
しかし先日、雨龍課長と共にした食事の時間がわたしに誰かと共に食事をする楽しさを植え付けてしまっていたのだ。
今まで付き合ってきた恋人たちとも、一緒に食事をしたことはある。
けれど、そこまで楽しいと感じた事はなかった。
何が違うんだろう。
雨龍課長との時間は、他の誰かと何が違う?―――
そんな事を考えていると、わたしは再び鯨の話を思い出した。